AUTOSARにおける標準化活動とはどんなものなのか:AUTOSARを使いこなす(10)(1/3 ページ)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載の第10回では、あまり知られていないAUTOSARにおける標準化活動について、筆者の経験を基にその一端を紹介する。また、AUTOSAR Adaptive Platformの最新リリースであるR19-03の変更点についても取り上げる。
はじめに
2018年3月から掲載開始の本連載も、気が付けば1年以上になり、第10回の掲載となりました。
2019年に入り、一般のお客さま向けトレーニングコースのご提供も開始し、だんだんと忙しくなってきましたので、そろそろ本連載も終わりに向けてまとめに入ろうかと考え始めています。というのも、日頃、JasPar AUTOSAR標準化WGの皆さんやこれまでお付き合いのあった方々からはリクエストやフィードバックをいただけるのですが、他の方々からはないため、「あまり関心をお持ちいただけないのだろうか?」と感じておりまして……。
でも、ようやく気付きました。フィードバックがないのも当然です。申し訳ございません、今の所属先に移ってから、連絡先を公開するのを忘れておりました!(第1回で「次回以降に連絡方法をお知らせします」と書いてから、もう1年以上たってしまいました)
今さらですが、こちらに連絡先を掲載いたします。
イーソル株式会社 櫻井剛
連絡先:t-sakurai[at]esol.co.jp(メールの際は[at]は@に置き換えてください)
本連載へのご要望などございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。なお、必ずしもご返信差し上げられるとは限りません。この点はご容赦くださいませ。
さて、前回の予告では、AUTOSAR R19-03リリースでの変化点の解説をすると書きましたが、その内容に入る前に、まずは、AUTOSARでの「標準化」に関して少しご紹介を。
標準化活動に関する近況
2019年5月に、AUTOSARの標準化作業に参加するエキスパートが一堂に集結する会合が久々に開催されました(前回から今回の掲載までにまた少し間をいただきましたのは、これに関する各種準備や、家族の慶事の対応に追われていたことも1つの理由です)。
この会合は、標準化作業(AUTOSAR規格やレファレンスコードの開発活動)に参加するエキスパートのみが参加可能なクローズドイベントでした(一般の非会員やAssociate Partnerの方々は、規約上、標準化作業に参加する権利がございませんので、残念ながら本会合への参加はできません)。
ここでの内容については、守秘義務契約の対象でもあるため、残念ながらここではご紹介できないのですが、国内から新たにPremium Partnerになった企業もいらっしゃいますし、今後標準化作業に参加することをお考えの方々もいらっしゃるとのことですので、雰囲気だけでもご紹介したいと思います。
余談ですが、総勢200人を超える出席者が集まりましたので、開催地のホテルのうち交通の便の良いところは、早いところでは3月頃には満室になってしまったそうです。ただし、先述の通り非公開イベントだったためホテルの方々は状況が把握できなかった上、筆者のチェックインの最中にも空室有無の問い合わせの電話が入り続ける状況で、レセプションの方からは「イベント告知も何もないのに、地球の裏からも人が集まるなんて、一体何事だよ!?!?」と半ば怒り気味に尋ねられる始末でした。久々に「AUTOSARを代表して(いるわけではなく、そういう筋合いでもないのに)怒られる」を経験し、国内からのAUTOSARに対する不満を浴びせられていた約10年前を思い出して苦笑していました。
この会合は一種の全体会議であり、AUTOSAR内の組織運営や標準化作業の状況(技術とプロセスの両側面)、今後の方針などが共有され、また、各種質疑応答が行われました。そして、標準化を行う作業部会(Working Group、WG)間における合同の対面式の会議も、この会合の前後に多数開催されています。
普段の標準化作業では、WG単位で月例の対面式の会議や毎週の電話会議が行われており、複数のWGでの合同会議は必要な場合にのみ行われています。
しかし、ほとんどが電話会議にせざるを得ません。加えて、参加エキスパートの多くは欧州のタイムゾーン内に居るので、日本を含むアジアや南北アメリカなどからの参加者も交えて議論をしようとすると、時差の都合もありどうしても電話会議を設定可能な時間帯と長さが限られます。実際、筆者の参加する毎週の電話会議5つのうち3つは、開始時刻が日本時間で22時になっています(さすがに体力がもたないですので、重要トピックのみに活動を制限し始めています、どなたか代わりにご参加いただけるなら、他の企業の方であっても喜んでアドバイスなど差し上げますよ!)。
電話会議は便利です。ですが、当然ながら対面式でなければ議論しにくい内容もあります。また、時間をかける余裕が生まれればお互いの前提のズレなどに気付きやすいといった利点もあります。ですから、頻度は少なくとも、同じ場所に集まる機会を持ち、そこに参加することはやはり重要です。もちろん、こういった貴重な機会に互いの顔を知り、議論や会話、食事などをともにすることで、本連載の第5回でも触れた「共通認識」の獲得や深化につながり、さらに個人間のネットワークも強化できるという利点もあります(変更要求のチケットシステム上の公式的な議論だけではなく、「あることが理解できない」「おかしいように見えるのだけど、どう思う?」というような会話は、直接のメールのやりとりでもよく行われていますので、相談できる相手を増やすことはとても重要です)。
企業としてのプレゼンス向上には足りない、直結しないように見えるかも知れませんが、その前段階で必要となることとして「顔を見せ、声があることを知らしめる」ということはとても重要です。Automotive SPICEのレベルと同様に、いきなり高いところからスタートすることはできないのですから。
古い付き合いの方々との間では、「お互い老けたな」という会話が年々増えてきていますが(ありがたくないことです)、かといって、「毎年平均年齢が1つずつ上がっていく」ような組織ではなく、新陳代謝も進んでいます。全体としてはやはり20〜30代の方々が目立ちます。古株と新卒に近い若手がタッグを組んで参加しているケースも多数見受けられます。若手を早い時期に投入するということはとても重要だと考えられています。
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