観測ロケット「MOMO」の打上成功から何が生まれるのか、次なる挑戦は「ZERO」:だからもうホリエモンロケットと呼ばないで(3/4 ページ)
2019年5月4日、インターステラテクノロジズ(IST)は観測ロケット「MOMO」3号機の打ち上げに成功した。これまで、創業者である堀江貴文氏の名前をとって“ホリエモンロケット”とも呼ばれてきたMOMOの打ち上げ成功は、今後どのようなことにつながっていくのだろうか。
観測ロケットにはどんな需要がある?
3号機までは「打ち上げ実験」という位置付けだったが、今回成功したことで、次回からは「実験」ではなく、いよいよ実用段階となる。同社は、超小型衛星用ロケット「ZERO」の打ち上げを2023年に予定している。MOMOの運用を軌道に乗せ、収益を確保しつつ、ZEROの開発を本格化したいところだ。
ではビジネスとして、観測ロケットにはどのくらいの需要があるのか。観測ロケットは、日本にはすでにJAXAの「S-310」「S-520」があるが、最近はほとんど打ち上げが行われていない。しかし、MOMO2号機と3号機には、高知工科大学のインフラサウンド(超低周波音)計測器が搭載されており、研究目的の需要は根強い。
ただ、問題となるのはコストだろう。MOMOの打ち上げ費用は1機当たり数千万円。20kgのペイロードを10者でシェアしたとしても、数百万円の予算が必要になる。既存のロケットよりは確実に安いとはいえ、研究機関側が払える金額かと言えば、現状の研究環境を見る限りちょっと厳しいかもしれない。
1つの方法としては、JAXAがMOMOの打ち上げを買い取り、公募で選んだ研究テーマを搭載する、という形もアリだろう。JAXAは低コストで研究を支援できるし、ISTは安定した顧客を獲得できる。このように国がスタートアップを買い支えて支援するのは、米国がSpaceXやRocket Labに対してやってきたことでもある。
そして民間企業ならではの需要の新規創出も期待したいところだ。特に、このあたりは同社創業者の堀江貴文氏が得意とするところで、同氏は「エンタテインメント分野の需要にも対応できるのでは」と期待を述べている。
MOMO3号機には、ペイロードとしてGROSEBALの「とろけるハンバーグ」も搭載していた。実験や観測以外にも、企業PRやエンタメなど、アイデア次第でさまざまな活用方法が考えられるだろう。個人的には、ホビーロボットを2体搭載して、史上初の宇宙ロボットバトルを誰か実現してほしいと思っている(笑)。
ZEROの技術開発にはJAXAも協力
ついに宇宙に届いたとはいえ、MOMOはまだまだ発展途上のロケットである。すでに製造を開始している4号機は設計を大きく変えないものの、その後の機体ではより低コストに、運用しやすいよう改良を加えていく方針だ。新規要素は失敗の原因となるリスクもあるが、今後の競争力を強化する上で、アグレッシブな技術開発は不可欠だろう。
そしてMOMOは、ZERO開発のための実験プラットフォームとしても活用できる。同じ宇宙ロケットでも、MOMOのようなサブオービタル機と、ZEROのようなオービタル機では、技術的にまだ大きな違いがある。ZEROでは新たに、多段化、エンジンの大型化、クラスタ化、ターボポンプなど、さまざまな技術を開発する必要があるのだ。
MOMOは単段式のロケットであるが、例えばフェアリング部を分離して、回収する機能を追加するということは考えられるだろう。ペイロードを回収したいというニーズに応え、MOMOの競争力強化になるし、多段化に必要な分離機能の実証にもなる。このように、ZEROを視野に入れつつ、同社は技術開発を進める構えだ。
ロケット開発のキモはエンジン開発である。ZEROでは、MOMOの5倍の推力となる6トンクラスのエンジンを新規開発し、それを第1段に9基、第2段に1基搭載する計画だ。MOMOは、高圧ヘリウムで推進剤をエンジンに押し出すシンプルな構成だったが、高性能化が必要なZEROでは、やはり新規開発となるターボポンプを使用する。
このエンジン開発の状況次第で、ZEROの開発期間やコストは大きく変わってくる可能性があるが、同社にとって、頼りになるのは援軍の存在だ。今回、ZEROのエンジン開発には、JAXAが「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みで協力。JAXAの設備を使った試験や、ISTエンジニアの受け入れなどで連携していく。
JAXAはこれまでも、研究委託などの形で同社を支援してきたが、さらに一歩踏み込んだ形といえる。ISTにとって、短期間でエンジン開発を成功させるためには、数十年もの長い経験を持つJAXAのノウハウは非常に大きいだろう。
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