MITとIBMが10年と250億円超をかけて研究する「Broad AI」は何ができるのか:人工知能ニュース(1/2 ページ)
日本IBMは、米国IBMがマサチューセッツ工科大学(MIT)との連携で設立した「MIT-IBM Watson AIラボ」の研究内容について説明。同ラボは、10年間で2億4000万米ドルを投資し、深層学習などにより実用化が進んでいる「Narrow AI(狭いAI)」をさらに発展させた「Broad AI(広いAI)」を中心とする研究開発を進めている。
日本IBMは2019年5月16日、東京都内で会見を開き、米国IBMがマサチューセッツ工科大学(MIT)との連携で設立した「MIT-IBM Watson AIラボ」の研究内容について説明した。同ラボは、10年間で2億4000万米ドル(約262億円)を投資し、深層学習(ディープラーニング)などにより実用化が進んでいる「Narrow AI(狭いAI)」をさらに発展させた「Broad AI(広いAI)」を中心とする研究開発を進めている。
会見の冒頭、日本IBM 執行役員 研究開発担当の森本典繁氏は「MIT-IBM Watson AIラボは、IBMにとって最大の産学連携プログラムになる。日本のAI導入率は14%程度という調査結果もあるが、これからどんどん普及するタイミングともいえる。IBMとして、大学の最新の研究成果を届けられるように取り組みを進めて行く」と語る。
左から、MIT-IBM Watson AIラボ IBM側ディレクターのデイビッド・コックス氏、IBMリサーチ ディレクターのダリオ・ギル氏、同ラボ MIT側ディレクターのアントニオ・トラルバ氏、日本IBMの森本典繁氏(クリックで拡大)
「Narrow AI」「General AI」とは異なる「Broad AI」
続けて、IBMリサーチ ディレクターのダリオ・ギル(Dario Gil)氏がMIT-IBM Watson AIラボの概要について説明した。AIにおけるIBMとMITの関係は、1950年代までさかのぼることができる。現在までつながるAI研究の契機となった1956年夏のダートマス会議がそれで、その後1959年には機械学習(Machine Learning)という言葉も生まれている。
そこから数度のブームを経て現在のAIがあるわけだが、ギル氏は「AIという言葉は誤解を生みやすい。より分かりやすくするためAIの前に形容詞を付けるべきだ」と述べる。一般の人々がAIという言葉から受け取るイメージは、人間と同じような知性を持つ「General AI(汎用AI)」だ。しかし、汎用AIは早くても2050年以降に実用化できるものであり、現時点では開発が難しくまだSFの領域にある。一方、既に導入が始まっているAIは、人間を超える精度を発揮できるものの、それは1つの領域や1種類のタスクにしか適用できない。ギル氏はこれをNarrow AIと呼び、「判断の根拠が示せずブラックボックスであること、学習に大量のラベルデータが必要になることなど、多くの課題がある」と説明する。
一方、MIT-IBM Watson AIラボで研究を進めているのは、Narrow AIの課題を克服した、マルチタスク、マルチドメイン、マルチモーダルに対応し、少ない量のデータで学習ができ、判断の根拠を説明できるBroad AIになる。
このBroad AIを開発するため、MITとIBMの100人以上の研究者が集まり、10年という長い期間をかけ、2億4000万米ドルを投資する。「大規模な投資金額以上に、10年間という長期の研究期間をコミットしていることが重要だ。Broad AIの研究開発には時間がかかる」(ギル氏)という。
2017年9月に活動を開始してから2年目に入っているMIT-IBM Watson AIラボだが、これまで186の提案があり、それらの中から49のプロジェクトが採択され、研究が進められている。なお、これらの提案やプロジェクトには、必ずMITとIBM、双方の研究者が加わる必要がある。ギル氏は「これまでの産学連携は、事実上大学から企業への引き抜きをやっているようなもので持続的とはいえなかった。MIT-IBM Watson AIラボは真の意味で共同で研究する体制になっている」と強調する。
赤ちゃんがお母さんから学ぶように学習ができるAI
次に、MIT-IBM Watson AIラボで、MIT側のディレクターを務めるMIT 電気工学&コンピュータサイエンス 教授のアントニオ・トラルバ(Antonio Torralba)氏と、IBM側ディレクターを務めるIBMリサーチのデイビッド・コックス(David Cox)氏が登壇し、同ラボでの研究内容を紹介した。
トラルバ氏は、同ラボにおけるAIの研究開発の方向性として「赤ちゃんがお母さんから学ぶように学習ができる」ことを例に挙げて説明した。赤ちゃんは、お母さんが読み上げる絵本の内容を聞きながら絵を見て学んでいく。「お母さんの言葉を理解できていないのだが、読み上げるのを止めると泣き出して、もっと読んでほしいと要求する。今の機械学習にそこまでのことはできない」(同氏)。
また、AIの研究開発をさらに進展させるのに今が絶好のタイミングであるともした。その理由として、コンピュータの演算処理能力が高まって、新たなアルゴリズムも多数登場しており、人間の脳神経構造を非侵襲的に分析する技術もできつつあることを挙げた。
なお、MITでは2000年からコンピュータサイエンスの授業を行っているが、2010年ごろまで約1万人の学生のうち4000人が登録している程度だった。しかし、AI技術が目覚ましく進展を始めた2011年以降、一気の登録人数が増え、2018年時点で8000人まで伸びているという。また、MITとしてもこの流れを受けて、約10億米ドルを投資して新たにコンピューティングカレッジを新設する予定だ。トラルバ氏は「MITではこの50年で最も大きな取り組みになる」と語る。
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