パナソニックのクルマの作り方、デザイナーとエンジニアで一緒に企画すると……:デザインの力(1/3 ページ)
現時点では無人運転車は市場に出ておらず、使ったことがある人もいない。そういったモノについて、どのように使い方や在り方を考えたのか。パナソニックに話を聞いた。
自動車メーカーや大手サプライヤーが開発競争を繰り広げる自動運転技術。自動車メーカーやサプライヤーは、運転をしなくなった乗員にどう過ごしてもらおうか、自動運転がどう人々の役に立てるか、趣向を凝らしたコンセプトカーを披露し、無人運転車の在り方を示している。
パナソニックも、「SPACe_L(スペースエル)」「SPACe_C(スペースシー)」という2台の無人運転車のコンセプトカーを開発し、国内外の展示会で披露した。その提案が評価され、自動車メーカーでこれまで取引のなかった部門ともつながりを持ち始めているという。
法整備が進み、社会が受け入れれば、運転席のない無人運転車が街を走る日もやってくるが、現時点では無人運転車は市場に出ておらず、使ったことがある人もいない。そういったモノについて、どのように使い方や在り方を考えたのか。
パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 オートモーティブ開発本部 統合ソリューション開発センター 総括の臼井直記氏と、同社 コネクティッドソリューションズ社 デザインセンター プロダクトデザイン部 主任デザイナーの武藤完志氏に話を聞いた。
自動車メーカーになることは目指さない
MONOist なぜパナソニックが無人運転のコンセプトカーを作ったのでしょうか。
臼井氏 自動車メーカーと戦うため、“自動車メーカーのパナソニック”を目指すためではない。自動車をつくるということには、われわれでは負いきれない重さの責任がある。また、大手のサプライヤーともバックボーンが違う。
われわれの勝ちパターンは、生活を豊かにすることに貢献できるかどうか。家の外はほとんどが移動であり、移動体に電機メーカーならではの生活の知見を生かしていく立ち位置だ。自動車メーカーをリスペクトしつつ、どのようにわれわれのテクノロジーを使ってもらい共存するか、そして、どのように人々の生活を豊かにしていくかという考えでやっている。
これまではお客さまといえば自動車メーカーだったが、自動車メーカーのお客さまは一人一人の人間だ。パナソニックは創業者の頃から、家やオフィス、移動といった生活をどう豊かにできるかを考えてきた。自動車メーカーのただの取引先としてやっていくのではなく、もっと人間の近くに行かないと意味がない。生活の中での困りごとを理解して生活をよくするために、電機メーカーとしてこんなことができる、というのを示すために、コンセプトでいいからクルマを1台作ってみようということになった。バッテリーやモーター、周辺システムまで技術として持っているので、電動化も含めて貢献の幅は広いと考えた。
MONOist 企画はどのようなメンバーで進めましたか。
臼井氏 車載の事業部だけでなく、デザイナーも早い段階から入った。無人運転車がオフィスやリビング、趣味の部屋になった時にどうなるか、移動する時間と空間をどう使おうかと考えていくときに、住宅やオフィス向けにパナソニックがやっていたことが生きてくる。自動車メーカーはクルマにまつわる人々の生活をよく知っているが、クルマ以外の生活については分からないことが多いようだ。
技術屋は左脳で働くが、使い勝手を表現するためのデザインには右脳も必要だ。そのため、デザイナーが従来の事業よりも早い段階で参加した。これがデザイン思考の一部といえばそうだが、もっと広く捉えている。例えば、ニッチなケースではあるが、われわれが自動運転車の実証実験を行う福井県永平寺町では、エンジニアと企画の人間が住み込んで、何に困っているか、どう生活しているか、ニーズは何かを掘り起こした。どうデザインして、パッケージにして提供したらいいか考え、使い勝手、形、人に受け入れられやすい外観とは……と作りこんだ取り組みもある。
武藤氏 お客さまがクルマの形として使いやすいものや、いいなあと思うものを膨らませて絵を描いていくのがデザイナーの表現方法の1つだ。同じ箱型のクルマであっても、移動オフィス、レストラン、宅配ボックス……と用途を具体的に表現していくと、企画が膨らんでいく。
臼井氏 デザイナーは「こういう形が使いやすい、ニーズに応えられる」とデザインを持ってくる。事業部はそれを見て、製品化した時のコストなどを検討する。ビジュアル化することで、いろいろな部門が参加してああでもない、こうでもないと話が進む。“ヨコパナ”でのカンパニーを超えた連携に加えて、以前在籍した欧州法人の部下や、アジアのメンバーも参加した。
武藤氏 デザイン思考は多様性が重要になる。それぞれが人の生活をイメージし、アイデアを出し合った。デザインはそうした生活のイメージをお客さまに分かりやすく示すためにある。
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