日本製造業の逆転シナリオは“脱自前主義”、「ものづくり白書」の提案:ものづくり白書2018を読み解く(後編)(2/6 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2018年版ものづくり白書」が公開された。本稿では、本文の第1部「ものづくり基盤技術の現状と課題」の内容を中心に、日本の製造業の現状や主要な課題、課題解決に向けた取り組みなどを2回に分けて紹介する。後編では、主要課題の解決を経営主導で実施していくための対応策などを紹介する。
現場力と経営力の両輪が必要
日本の製造業が持つ課題を解決することは容易ではないが、今後の展望を悲観的に捉えるべきではない。良質な現場を持つ日本のものづくり企業にとっては逆に大きなチャンスともなり得る。データが経営資産として極めて重要となる中、日本が持つ質の高い現場データは、今後、貴重な資産となり、経営戦略上の重要な武器となることが期待できるからだ。
その際、鍵を握るのはやはり経営力だ。現場力を再構築するには経営力の発揮が不可欠となる。現場力の再構築を現場に丸投げするのではなく、経営層主導によって現場と緊密な連携の下で進めることが求められる。
デジタル革新の時代において、デジタル技術の利活用による効果の最大化を図るには、工程ごとや工場内だけの取り組みではなく、全体を俯瞰した一貫した仕組みとして全体最適を目指した取り組みが重要となる。その実現には会社全体、バリューチェーン全体を真に俯瞰できる、経営層による経営力の発揮が不可欠となる。そこ加えて「現場で働く作業者の高い能力を組み合わせることが、他国にはまねできない強い現場力の再構築につながるのではないだろうか」と、ものづくり白書では提案する。
そこでも効果を発揮するのが、デジタルツールだ。センサーやタブレットなどで各工程のデータを収集、分析することで、製造ラインの「停止」の原因究明、故障予知、繁忙期の人員最適配置などに活用でき、生産性向上や人手不足対策につなげられる。そうした取り組みの実施を決めて、推進するのも経営者の重要な仕事である。
デジタルツールの具体的な活用例も紹介
ものづくり白書では、生産性向上を実現する現場力の再構築に向け、デジタルツールの果たす役割の重要性について具体的な事例を交えて論じている。特に、繰り返し単純作業、重労働、危険な場所での作業、データ処理など機械の方がうまく行える作業などに関し、ロボットやIoT、AIなどの先進ツールの積極的な利活用を通じた自動化や省人化が期待される。
ただし、単なる人による作業の自動化などを図るのではなく、業務全体の在り方も必要に応じて見直すなど「人の潜在能力とツール活用の相乗効果」を図れるように業務の全体最適化を目指すことも重要だ。その実現のためには、経営層がデジタル化の効用や進め方に関する一定のリテラシーを有することが不可欠となる。デジタル担当責任者が経営に参加するなど組織体制づくりも鍵を握る。
ものづくり白書では「生産性の高い強い現場力を実現するにはデジタルツールなどの利活用は不可欠であり、その取り組みは多くの職場で待ったなしだ」と強調している。
「働き方改革」を通じた生産性向上と人手不足対策の推進
旧来の製造業の産業構造が、異業種のさまざまなプレイヤーの新規参入などによって大きく変化している中、既存の枠を超えた知識の獲得や融合が必要となっている。その中で、全てを自前で完結する「自前主義」は限界を迎えつつある。
このような大きな変化に対し、外部人材を含めたリソースをうまく活用することが重要であり、働く人のニーズに応じて「多様で柔軟な働き方」を選択肢として選べるようにすることが求められている。従来の「日本型雇用システム」から、より柔軟性が高く、多種多様な人の能力を最大限発揮できる職場環境の整備や雇用システムへの移行が期待される。
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