変わるパナソニックの象徴か、デザインスタジオが商品化に挑む「WEAR SPACE」:イノベーションのレシピ(2/3 ページ)
デジタル化などによって変化の激しい時代を勝ち抜くためにさまざまな取り組みを進めるパナソニック。その中でも際立った取り組みとなっているのが、パナソニック アプライアンス社のデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」が企画開発した、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE」だ。
新幹線で移動しているときに思い付いた「WEAR SPACE」
MONOist FLFとしての活動の方向性が一新されたわけですが、そこでWEAR SPACEはどのように生まれたのでしょうか。
足立氏 WEAR SPACEのコンセプトを思い付いたのは、私が東京と関西を行き来するために新幹線で移動しているときでした。周りが騒がしいことがあって、その時に「集中できるパーソナルスペースがほしい!」と思ったのがきっかけです。
私自身はもともとテレビやオーディオの事業部に所属していましたが、FLFの活動を始めるに当たってそういった事業部としての制約を取り払い、お客さまの新しい価値や課題解決を作り出していくという考え方になったのも重要でした。オーディオ技術を、音楽を聴くことだけに使うのではなく、集中できるパーソナルスペースを作り出すのに使えるのでは、という発想の転換につながったんです。
そして、FLFとしてデザイン案を外に向けて見せて行くときに、最初にトライしたのが世界的に著名なプロダクトデザイン賞である「Red Dot Design Award」です。そこで、WEAR SPACEをはじめ幾つかをデザインコンセプト部門に出品したところ、WEAR SPACEなど3つの製品が優秀賞に当たる「Best of the Best Award」に選ばれました。
井野氏 実はこの後、賞を取ったデザイン案を事業部に持って行ったのですが、商品化のGOサインは出ませんでした。そこで、従来の製品マーケティング手法とは異なるやり方で商品化の可能性を調査することにしました。
姜氏 WEAR SPACEについては、著名なファッションデザイナーである森永(邦彦氏)さんに見てもらうことにしました。われわれとしては、オフィスのデスクワーカー向けの製品として、ファンションの文脈から見るとどのような評価をしてもらえるのかを聞きたかったのですが、ここから想定外の展開になりました。
森永さんからは、WEAR SPACEから、五感への訴えかけにつながる本質的な価値を感じるという意見をもらえました。「アートとその鑑賞者を1対1の空間にできるのではないか」「ファッションショーの来場者にとってモデルと1対1の空間を作り出せるのではないか」といった話でした。そこで、森永さんが設立したブランド「ANREALAGE」の展示会でコラボレーションすることになりました。
従来の製品マーケティングでは得られない出会いや気付き
MONOist 意外な形で評価されたWEAR SPACEですが、その後2018年3月開催の米国のテクノロジーイベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」に出展しました。ここではどのような評価でしたか。
姜氏 WEAR SPACEは、新規の技術を採用しているわけではなく、既存の技術を組みわせたものです。そういった技術的な課題の少なさもあって、SXSWに出展する前から「これはもうすぐにでも商品化できるのではないか」と感じていました。SXSWで受注を取ってくるぞ! という意気込みでしたね。
残念ながら受注はとれなかったのですが(笑)、会場で実施したアンケートでは、5段階中4以上の評価を90%以上の方から得ました。われわれの提案するコンセプトに対して、想像以上に高い評価が得られたと実感しました。
あと、SXSWをきっかけに、新たな出会いも生まれました。WEAR SPACEの事業化プロジェクトでいろいろとコラボレーションしている日本酒テイスティングサービス「YUMMY SAKE」とは、SXSW会場での出会いが起点になっています。
SXSW以降になりますが、われわれの取り組みを紹介したWebメディアの記事を読んで、ADHDの団体の方々から連絡をいただくという出会いの形もありました。
これらの出会いや気付きは、従来の製品マーケティングでは得られないものです。また、「(WEAR SPACEは)自分たちのために考えられた製品ではないか」というような意見をいただけたことも大変うれしいものでした。
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