人工知能で、タンパク質の機能改変を効率化:医療技術ニュース
東北大学は、人工知能を用いて、タンパク質の機能改変を従来よりも大幅に効率化する手法を開発した。同手法が、抗体や酵素など医療、食品、環境の中で活用できる、さまざまな機能性タンパク質の開発を加速することが期待される。
東北大学は2018年8月31日、人工知能を用いて、タンパク質の機能改変を従来よりも大幅に効率化する手法を開発したと発表した。同大学大学院工学研究科 教授の梅津光央氏と、産業技術総合研究所人工知能研究センター、理化学研究所革新知能統合研究センターとの共同研究による成果だ。
開発に当たり、まず、従来のランダムな変異導入によって少数の変異体を調製して実験し、人工知能に学習させるデータを取得した。次に、人工知能技術の1つであるベイズ最適化で、どのような変異を導入すれば目的の機能を持つタンパク質が得られるかを予測。これにより、少数の実験データから、目的の機能を持つタンパク質を豊富に含み、かつ低コストでの実験が可能な「小規模の変異体群」(スマートホットライブラリー)を提案できる。
同手法を緑色蛍光タンパク質(GFP)から黄色蛍光タンパク質(YFP)への改変に適用したところ、これまで知られていたYFPよりも長波長で、蛍光強度も高い新規YFPを多数発見できた。ランダムな変異導入で調製した従来のライブラリーには、黄色蛍光タンパク質は約3%しか含まれていなかったが、人工知能が提案したライブラリーには、約70%の黄色蛍光タンパク質が含まれていた。
この実験により、タンパク質の機能改変に人工知能が有効であることが確認された。今後、同手法が、抗体や酵素など医療、食品、環境の中で活用できる、さまざまな機能性タンパク質の開発を加速することが期待される。
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