悩ましき「ブランク品」の図面たち:【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年8月のサブテーマは『汎用工作機械での3Dデータ活用を考える』です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年8月のサブテーマは『汎用工作機械での3Dデータ活用を考える』です。
SCENE 3:悩ましき「ブランク品」の図面たち
>>前回:【事件ファイル】図面通りに加工したのになぜNGなのだ!?
切削加工の世界では、加工前の材料そのもの、あるいはまだ仕上げられていない半加工品を「ブランク」とか「ブランク品」などと呼んでいます。部品加工ではいくつもの工程を経る上に、必要な設備を全て完璧にそろえている加工屋さんというのは稀(まれ)ですから、モノによってはこの「ブランク品」が加工屋さんを渡り歩くこともあるのです。少し分かりやすくするために、皆さんがよく見かける歯車の製作を例に取ってみましょう。
歯車の工程を大まかに説明すると、以下のようになります。
- 材料取り
- 旋削:旋盤による切削
- 歯切り:歯車のギザギザ部分をカットする
- モノによってはその後に熱処理やめっきを行い、完成
このように複数の工程を経る中で、最初の材料は旋削工程にとってのブランク品であり、旋削工程を終えた段階では、歯切り工程にとってのブランク品ということです。そして、単純加工に適した汎用工作機械は、このブランク品の製作で活躍することが多いのです。
このように加工屋さんを渡り歩きながらブランク品は形を変えていくわけですが、この時の図面はどうなっているのでしょうか。
たまに、各工程別にブランク品の図面を用意してくださる親切な設計者さんがいたりします。いや何を隠そう、かつての私自身がそうだったのですが、多少なり加工経験があると気を利かせたくなるのは仕方ありません。ですが、今ではそのブランク品図面は、各工程に最適な加工情報であるとは限らないということを悟りました。
製作依頼を受けた会社が、「どの部分の工程を自社で加工して、どの部分を外注工場へ委託するか」なんていうのは、正直、設計者には分からないのです。それから、研磨で寸法を仕上げる指示をしたとして、研磨手前のブランク品にどのくらいの研磨代(しろ)を付けるかといった場合でも、それを設計者が細かく指図することが適切でない場合もあります。ですから、基本的に完成品の図面だけで情報は十分。それを当該部品の加工に関わる全ての加工屋さんが「共有」して、自社の加工範囲の把握と、次工程に回すための寸法指示や加工の注意事項などを図面に書き込んで運用しているのが常です。
そう聞くとついつい「手間のかかることをされているんだなぁ」と思いがちですが、加工者、特に汎用工作機械での加工者の方々は、設計者よりもはるかに現場を知り尽くした技術屋そろいですから、まず完成品の図面から全体を把握することが第一で、そこから自分の担当範囲をさかのぼって、次工程にも配慮した巧妙な段取りを組んで加工に臨むのです。その段階での図面を見せてもらうと、ノウハウが詰まっていて逆に勉強させられることもありますね。
一昔前に比べて、最近の図面は3D CADで描かれたモデルから図面化されたものが増えてきたので、加工者がノウハウを書き込んだ図面にも、おおもとをたどれば3Dデータが存在することもあります。
ならば、「汎用工作機械での加工であっても、加工依頼の際に図面と一緒に3Dデータも支給したら良いのでは? ノウハウを承継する手助けとして3D CADを活用できないものかな?」と考えることがあります。すると例えば、加工者がデータを編集して、任意で「ブランクモデル」を作成して図面化できるようになります。「NC工作機械の加工でなければ必要ないもの」とくくらずに、将来的にはどの加工屋さんでも3D CADは備えておきたいものになるのではないでしょうか。
次回は『SCENE 4:汎用工作機械の現場、3Dデータはこう役立てる』をお届けします。もしも加工屋さんに、3Dデータを確認できる環境があるならば……。(次回へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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