国内AIベンチャーに有望株、パスタ盛り付けや再生医療細胞の品質管理などを支援:人工知能ニュース(2/2 ページ)
NEDOは2018年8月8日、政府の「人工知能技術戦略」に基づくAIベンチャー支援事業の一環として、全国30件の応募からコンテスト形式で選定した6件の研究テーマを採択したと発表した。採択が決定した各委託予定先のベンチャー企業は、2018〜2019年度まで最大2年間の研究開発を実施する。
最優秀賞は「食品の盛り付け」と「再生医療細胞の品質管理」
生産性分野の最優秀賞に選ばれたのはDeepXの「食品(非定形・軟体物)を定量でピックアップするAIアルゴリズムの研究開発」である。ディープラーニングによる画像認識や強化学習を活用し、バットに盛られた「非定型」で「柔らかい」大量の食品の山から「指定量」を産業用ロボットでピッキングし、弁当などの容器に移すアルゴリズムの研究開発を目指す。
DeepXは、AI研究で知られる東京大学 教授 松尾豊氏の研究室発のベンチャー企業だ。同社 代表取締役の那須野薫氏は「食品の盛り付けや野菜工場での青果のピックアップといった作業は、ほとんどが人手で行われており機械化すら進んでいない。これをAIによって自動化していきたい」と語る。実際に、食品製造業の生産工程従事者の総人件費は約3兆円(2017年度)という規模であり、対象とする市場規模は大きい。
なお今回の研究開発では、DeepXがディープラーニングに基づいてAIアルゴリズムの開発を、食品加工分野の計量・自動化機器メーカーであるイシダがハードウェアの開発や顧客ニーズ抽出、販売を担当する。
健康・医療・介護分野の最優秀賞は、PuRECと名古屋大学 准教授の加藤竜司氏による「AIによる高純度間葉系幹細胞の品質検査高度化の調査研究」が選ばれた。画像解析と先端AI技術を融合することで、全く新しい実用的な再生医療用細胞の品質検査システムを開発し、再生医療用細胞製造現場における安定性と効率の向上とコストダウンの実現が目標だ。
PuRECは、超高純度ヒト骨髄幹細胞の「REC」を販売しているが、その品質を培養中の生きたままの状態で評価することができず、「人間の経験と破壊検査に頼るしかなかった」(PuREC 取締役で島根大学 生命科学講座 教授の松崎有未氏)という。今回の研究開発では、名古屋大学の加藤氏が開発したAIと画像処理を組み合わせた画像指紋化技術によって、RECの品質管理の定量化と安定化、低コスト化を目指す。これにより、RECの製造コストを80%以上削減できると見込んでいる。
生産性分野の審査員特別賞は3件。IDECファクトリーソリューションズとRapyuta Roboticsによる「AI、クラウド、センサ、画像処理を活用したミドルウェア汎用ロボットコントローラの調査研究」は、スマートフォンを操作するような簡単な操作感覚で、多種多様な産業用ロボット、サービスロボットの動作を実現させるプラットフォーム技術の開発を目指す。IDECファクトリーソリューションズはロボットインテグレーター、Rapyuta Roboticsはクラウドロボティクスのベンダーであり、開発するプラットフォームは市販のさまざまな協働ロボットをセル生産やライン生産で組み合わせて利用できるものを想定している。「人手不足が深刻な中小企業が使いたいと考えている協働ロボットを、より簡単に使えるようにしたい」(IDECファクトリーソリューションズ 取締役 ロボットシステム事業本部 部長の鈴木正敏氏)という。
MI-6による「MI(マテリアルズ・インフォマティクス)による材料探索に関する調査研究」は、MIを活用した材料探索において、AIとシミュレーションによる探索結果をクラウドソーシングで評価し、さらに評価結果を学習することで探索制度を向上する手法の確立を目標としている。AIとシミュレーションで作るべき材料に当たりを付けつつ、その合成可能性についてはクラウドソーシングで人の知見を基に判断する。AIやシミュレーションのエンジンは、合成可能性の判断結果を反映してさらにレベルアップしていく。既にキシダ化学などのメーカーとの実証実験を進めており、さまざまな成果も出ている。「創薬分野でMIが活用される一方で、材料化学分野では世界的にもこれからの取り組みになる。リチウムイオン電池は素晴らしい発明だが、それをコンセプトから実用化するまで20年かかかった。この期間をAIで短縮したい」(MI-6 代表取締役の木嵜基博氏)。
ロックガレッジによる「AI/クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」の目標は、複数機のドローンにより広範囲の遭難者捜索を行い、同時にAIとクラウドソーシングを組み合わせることで、高い捜索効率と検知精度を実現する自動捜索・自動検知システムの開発である。「ドローンで取得できるデータは膨大であり、これを効率よく処理できないと捜索や救命に間に合わない。さらにAIには見落としが起こり得るので、これをクラウドソーシングによってなくしていく」(ロックガレッジ 代表取締役 岩倉大輔氏)。開発目標は10km2の捜索をカバーすることだ。
健康・医療・介護分野の審査員特別賞は、MICINの「機械学習を用いた認知機能リスク因子の探索」が選ばれた。脳梗塞により発症する認知症について、人間ドックなどで得られる医療データとの因果関係をAIで解析。「認知症予備軍」を早期に発見して、予防や根治を可能にすることを目指す。「認知症の中でも、脳梗塞などを原因となる脳血管性認知症は予防できる。認知症のうち5人に1人が脳血管性認知症だ。それに関わる因子をAIで見つけ出すことで、認知症予防の道筋を付けたい」(MICIN 執行役員の徐マリア氏)としている。
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