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ドローンではなく小型航空機をクルマ代わりに、法政大が次世代都市航空交通の研究へUAM(1/2 ページ)

法政大学大学院は2018年6月にアーバンエアモビリティ研究所(Hosei University Urban Air Mobility Laboratory:HUAM)を発足した。同研究所は、電動小型航空機によるによる次世代の都市航空交通(アーバンエアモビリティ、UAM)に関する調査や研究、開発を目的とする。

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 法政大学大学院は2018年6月にアーバンエアモビリティ研究所(Hosei University Urban Air Mobility Laboratory:HUAM)を発足した。同研究所は、電動小型航空機による次世代の都市航空交通(アーバンエアモビリティ、UAM)に関する調査や研究、開発を目的とする。設置場所は法政大学理工学部 機械工学科 航空・機械音響研究室内となる。


法政大学大学院の理工学部教授である御法川学氏(中央)、ニコラデザイン・アンド・テクノロジーの水野操氏(右)

 HUAMでは日本において航空機を起点とした身近な空の乗り物(UAM:アーバンエアモビリティ)の研究を核とし、都市部において、移動や貨物運送などを目的として、企業や個人がクルマの代わりに空の乗り物を利用する社会環境の実現を見据える。

 今、世界各国でもUAMへの取り組みが進みつつある。UAMの具体的な姿としては有人ドローンや空飛ぶクルマ、電気航空機などがある。また航空機関連メーカーからの参入に比べて、自動車メーカーやIT企業などそれ以外の企業参入が目立つ分野である。UAMについてはモビリティ実機の開発計画やテスト飛行については度々話題になるものの、国の交通インフラとしての計画については、世界中を見渡してもまだ抽象度が高い。

 現状の航空機は、障害物がなくかつ管制された上空で高速移動するための規格になっていて、省庁が定める規定の高度を飛ばなければならないが、設計手法はある程度確立されている。一方で現状の有人ドローンにおいては建物間などを低空飛行することを主眼とした飛行性能であり、人を複数人乗せて、交通機関として使えるほどの距離を安全に飛行できるレベルにするにはまだ課題が多い。

 よって人を乗せて安全に都市内を移動できるモビリティは機体の開発と、大幅な法改正が必要となる。このような背景から、UAMの実現にはさまざまな方面における面倒な課題が山積みであって、社会インフラとしての具体化が難しいといえるだろう。

 HUAMでは、機体開発のみならず、こういった社会インフラに関する調査研究も行う。HUAMが見据える取り組みがうまくいけば、日本の航空機業界にとっては新たなカテゴリーを開拓することになる。ひいてはこの研究が、昨今の日本における航空機設計開発技術者不足およびパイロット不足に対応するための若手育成にもつなげられると考えるという。

 法政大学では古くから航空エンジニア育成に取り組んできた。1929年には日本初の大学航空研究会を発足、1944年には理工学部の前身の前身である法政大学航空工業専門学校も設立した。戦中は、新三菱重工業 堀越二郎氏の「零戦(十二試艦戦闘機)」などで名をはせた日本であった。しかし戦後は「航空機は兵器である」という強い認識が広まっていたことからも、航空機開発から撤退するメーカーが多く見られ、航空機エンジニア教育を廃止する学校も目立った。しかし法政大学では航空業界を支える人材不足への対応として、2008年にパイロットコースを設置、併せて航空エンジニアの育成にも力を注いできた。

 HUAMの所長には同大学院の理工学部教授である御法川学氏、研究員としては同大学院イノベーションマネジメント研究科の特任・任期付教授である小川孔輔氏、同デザイン工学部教授の田中豊氏が在籍する。特任研究員には、JALエンジニアリングの白井一弘氏、ニコラデザイン・アンド・テクノロジーの水野操氏を迎えた。

 御法川氏は1993〜1999年まで荏原総合研究所に在籍し、以降は法政大学工学部での研究にずっと携わっている。研究分野は流体工学と音響工学、航空宇宙工学。流体騒音解析のスペシャリストである。2010年からは従来の軽飛行機よりもさらに小型で二人乗りのライトスポーツエアクラフト(LSA:Light Sport Aircraft)に関する研究に取り組んできた。LSAは既にアメリカに存在する航空機のカテゴリーで、LSAのパイロットのライセンスも存在する。御法川氏は航空機の設計を学ぶ学生も飛行機の操縦の経験があるべきと考えており、LSAの取り組みについて、理工学部機械工学科に航空操縦学専修が設置された2008年頃から少しずつ準備を始めたという。

 白井氏はJALエンジニアリング整備監査部の主席整備監査員を務める。かつて日本航空(JAL)では整備や客室・電装設計に携わり、ボーイング社では「777」の設計にも携わった。航空輸送技術研究センター委員としての活動時には大型航空機の安全性向上検討委員も務めた。

 MONOistの筆者でもある水野操氏は現在、3D設計技術の識者として名前が知られているが、もともとの専攻は航空工学であり、航空機パイロットになることが夢の1つであったという。日本では航空工学について学習できる場が限られていたこともあり、若かりし頃に渡米して大学院で航空工学を学んだ。卒業後は解析エンジニアになり、しばらく航空工学から離れた形となった。ところが今回、自らも講師を務める法政大学が縁で、かつて追い求めた夢へ戻ってきた。HUAM自体は非営利な研究機関であるが、水野氏としては将来はその研究成果を利用してビジネスを立ち上げていくことを目的としているという。

 HUAMの研究では単に小型モビリティの実機開発にとどまらず、日本における航空業界の新しいビジネスモデルの模索や、新しい都市交通インフラの法整備までを研究範囲としている。水野氏のようなメカ設計のスペシャリストだけではなく、白井氏という航空機における安全・整備関連のスペシャリストの経験と知恵も借りて、開発メーカーや関連省庁と連携しながらUAM社会の実現に向けた提案を行っていく。

 「LSAを研究する過程では、関係省庁の方々や航空スポーツの人々に対して勉強会を実施してきた。関係者のコーディネートが非常に重要である」(御法川氏)。

 HUAMでは電動航空機の普及にも積極的に取り組んでいく。エンジン駆動であるプロペラを電動化すれば環境にも配慮でき、かつ静音化にも有効で、何より圧倒的な運航コストの削減になるので、航空機への垣根をぐっと下げることが期待できるという。さらにHUAM設置期限である2023年3月までにはUAM機体試作へ具体的に動き出すことを目指す。


ULP軽飛行機とのLSAの比較(出典:法政大学大学院)


LSA(Light Sport Aircraft)の制限事項。エンジンは電動でも可である(出典:法政大学大学院)

 当面の1年間では、LSAやUAMの調査や研究を進めながら、研究所の考える構想の認知を世間に広めていき、航空業界や関連省庁へも掛け合って共同で調査研究を進める。2018年中にはUAMに関するシンポジウムを開催し、関連省庁や研究者などを集めて研究の趣旨や今後の計画について話す予定だ。

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