モビリティサービスが自動車市場に与えるインパクトはプラスかマイナスか:IHS Future Mobility Insight(4)(2/3 ページ)
世界各国で普及が進むモビリティサービスだが、自動車市場にどのような影響を与えるのだろうか。中国と米国、欧州、そしてインドでどのような変化が起こるかを予想する。
自動車市場の成長をけん引するのは新興国、2023年には全体の6割に
IHSマークイットでは交通部門における自動車(ライトビークル車両:車両総重量で6トン以下の乗用車、及び商用車で、自動二輪/三輪車や超小型モビリティ車両、及び重量車の中大型トラックやバスなどは除く)に関する将来台数予測を行っており、世界的な自動車市場は、新興国を中心に拡大成長を続けるとみている。2000年には、おおむねライトビークル車両の新車販売ベースで5500万台であったものが、2008年のリーマンショックによる金融危機をへた後も2010年で7千万台超、2016年で9千万台超となっており、今後2020年の約1億台を目指して発展中である。
今後の成長の中心的な役割を担うのは、主に新興国市場であり、世界販売台数の内、新興国市場が占める割合を新興国販売比率とした場合、現状で55%弱程度であるのに対し、将来的に2023年辺りで6割に到達すると予測されている。中でも市場のけん引役となるのは、大国中国やインドなどだ。巨大な人口を抱えていること、経済成長や所得増大に伴い自動車を購入できる層が増えていくことで、新規需要による保有増大と増大した保有車の買い替え需要とが相まった市場拡大が背景となっている(図3)。
モビリティサービスが自動車市場に与えるインパクト
このように市場動向が地域や国によって成長度合いが異なるのと同様に、モビリティサービスや自動運転などの進展度合いや許容度にも地域的な特色が現れるとみている。これにより、さらには自動車の走行距離や保有台数、また新車の販売台数へ影響を及ぼすことになるであろう。
モビリティサービスの発展にとって理想的な中国市場
世界の自動車販売の約3割を占める最大の自動車市場の中国では、NEV(新エネルギー車)規制による、EV、PHEV、FCV(燃料電池車)などの生産実績で付与されるクレジットベース換算で中国において年間3万台以上を生産/輸入する自動車完成車メーカーが対象となることで電動化が推進されるであろう。
中国市場は、近年拡大してきているとはいえ、依然として自動車の保有率が比較的低い状況にある。その一方で、特に都市部が抱える大気汚染問題や渋滞の深刻さなどの社会問題にも直面しており、一部の大都市地域などでは既に保有台数の規制が敷かれている。とはいえ、移動に対する需要は大きく、滴滴出行(ディディチューシン)などのサービスを中心にモビリティに対する受け入れ態勢は既に整いつつあるといえる。また、運転すること自体に対する要望/欲求度合いは中国では必ずしも大きくなく、優先事項ではないという側面からしても、中国はモビリティサービスの発展にとっては理想的な市場といえるかもしれない。だとすると、自動車販売への影響は避けられず、中長期的には年当たりでおおむね100万台規模のマイナス影響となると予測される。これは中国の市場規模からすると3%程度に相当するようになるとみられ将来的には保有台数への影響も不可避であろう。
モビリティサービスが人気の米国市場はどうなる
同様に米国では、ZEV(ゼロエミッション車)規制により、主にカリフォルニア州を中心とした州内での販売に対して一定以上の比率で排出ガスがゼロの車両販売を義務付ける制度が局地的ではあるものの存在することで、電動化が促進されるとみられる。モビリティサービスに関しても、米国ではウーバー(Uber)、リフト(Lyft)に代表されるライドシェア(ライドヘイリングとも)による相乗りサービスが人気で、他人が運転するクルマの空いた席に同乗、相乗りして目的地まで移動することで、世帯における所有車の減少につながる可能性があるとみている。
ただし、米国の場合、自動車保有率は世界でも有数の高水準となっており、今所有している全てのクルマを移動サービスのために手放す、あるいは代替購入を諦めるといったことではなく、所有する複数台の車両の内一部の所有形態の変更を検討するといった具合になる。従って、モビリティサービスの進展によるマイナス影響は中長期的に年当たりでも20万〜30万台規模とみられ、米国市場全体では1〜2%程度となるであろう。
欧州ではモビリティサービスによる自動車市場の減少は限定的
欧州、特に西欧市場では、英国やフランス、北欧諸国などを中心に中長期的な電動化を推進していく方向にある。モビリティサービスに関しては、通信や道路のインフラという側面では普及しやすい状況であるものの、一部の国で規制のために特に配車サービスは苦戦の状況を強いられており、新車販売へのマイナスインパクトは限定的であろう。ただし、シェアリング全般では消費スタイルの変化を背景に脱マイカー志向がみられつつあり、今後のクルマの使い方という意味では存在感が強まるであろう。
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