組み込みベンチャーが決断、「自動運転のAI止めます」の真意:モノづくり×ベンチャー インタビュー(2/2 ページ)
組み込み機器向けのセキュリティとAIで存在感を発揮しているのが、2009年創業のベンチャー企業・SELTECH(セルテック)だ。創業時から組み込みセキュリティに注力してきた同社は、車載関連での実績を基にAIソリューションにも展開を広げている。SELTECH 社長の江川将偉氏に話を聞いた。
家の中にいる人の行動や感情を認識するAIへ
MONOist AI関連ではどのような取り組みを進めていますか。
江川氏 これまで当社が取り組んできたAIの代表例は、NVIDIAと協力して進めてきたともにADAS(先進自動運転システム)や自動運転になるだろう。しかし、いろいろ考えた結果、2017年をもってADASや自動運転のAIに関する取り組みを止めることを顧客企業に通達した。
MONOist 自動運転となると、注目度、ビジネス規模の面で見てもかなり大きいはずです。なぜ手を引くことにしたのでしょうか。
江川氏 これまでの当社の取り組みを通して、AIを活用した自動運転技術はかなりのレベルまで進展したと感じている。残り5%の運転精度をどう突き詰めていくかという段階で、手動運転によるヒューマンエラーの方が事故率は高いだろう。
それでも自動運転技術が引き起こした事故への責任を負えるかと問われれば、たとえ万が一の確率だったとしてもソフトウェアベンダー1社では負い切れない。以前と違って、現在はその残り5%を追い込むためプラットフォームもあり、人海戦術もとれるようになった。そういった段階の開発は当社がやるべきことではないと判断した。
MONOist 今後はどういったAIに取り組むのでしょうか。
江川氏 これから、家の中にいる人の行動や感情を認識する方向で開発を進めていく。これまでの自動運転関連の技術も転用可能だ。AIソリューション「VAIS」として既に提案を始めている。
もともと「誰にもまねできないこと」をやりたいからこそ自動運転技術に取り組んだ。VAISは人を認識するAIだが、それよりも難しいことがある。やるべきことを提案するレコメンドだ。そのために開発を進めているAIが「AIMY」。シンプルに人にサービスを提供するAIであり、VAISとAIMYによって、経済産業省が提唱する「Connected Industries」の実現が可能になると考えている。
MONOist 高度なAIとなると組み込み機器ではリソースが不足して使えません。VAISやAIMYは組み込み機器で利用できるのでしょうか。
江川氏 現在のAIの枠組みでは、IoTから集めたビッグデータを使ってクラウドで機械学習を行い、得られた推論アルゴリズムをエッジに組み込むのが一般的だ。VICEやAIMYも同じ方向性になるだろう。
ただし、エッジで人に関わるセンサーデータを取り続けると、結局のところ画像データと変わらないくらい重くなる。そこで2〜3年先を見据えてフォグ化も検討している。ユーザーの手に届くところにあるのがエッジだが、手に届かないところがフォグ。スマートホームであれば、バックエンドにある中核のゲートウェイPCなどがフォグになるだろうか。
MONOist 今後の事業目標を教えてください。
江川氏 2017年度の売上高は約5億円。2018年度は11億〜13億円になると見込んでいる。2019年度には30億円まで伸ばしたい。従業員数は現在約60人なので、売上高の伸びに合わせて採用していきたいと考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「モノづくり×ベンチャー インタビュー」バックナンバー
- パナソニックに“出戻り”のCerevo岩佐氏、100年企業に与える「いい刺激」とは
ハードウェアベンチャーの雄、Cerevo(セレボ)の代表取締役である岩佐琢磨氏が、2007年の同社創業前に勤めていたパナソニックに11年ぶりの“出戻り”を果たす。なぜパナソニックへの“出戻り”を決めたのか。そして、パナソニックで何をやろうとしているのか。同氏に聞いた。 - 日産が採用したVR向け触覚デバイスは「深部感覚も再現する」
製造業におけるVR活用が進む中で、視覚だけでなく“触覚”も求められるようになっている。VRの3D空間で触覚を再現するウェアラブルデバイスとして注目を集めているexiiiの「EXOS」は、既に日産やNEC、デンソーウェーブなどに採用されている。 - ロボットに興味がなかったPepperの開発者が新たにロボットを作る理由
ソフトバンクの感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper」の開発をけん引したことで知られる林要氏。子どものころ「ロボットに興味がなかった」と話す林氏だが、Pepperだけでなく、ベンチャーを起業して新たなロボットを開発しようとしている。林氏は、なぜまたロボット開発に取り組んでいるのだろうか。 - IoTが攻撃者にとって格好のターゲットである理由
無数の組み込み機器がインターネットに常時接続されるIoTの世界が現実味を帯びる中、セキュリティ対策は大きな問題となる。ARMが64bit命令セットとTrustZoneで実現しようとする世界とは何か。ARM Tech Symposia 2015での講演から紹介する。 - IoTの安心/安全な活用に向けて共同でアライアンスを発足
NTTデータ、積水ハウス、大日本印刷、ベンチャーラボ、SELTECHは、共同で「Secure IoT Alliance(SIA)」を発足した。実効性の高いIoTセキュリティ指針を策定するなど、IoT製品を安全/安心に使える仕組みづくりを進める。