モビリティのサービス化の最前線、技術とビジネスの在り方が変わる:MONOist Future Mobility Forum 2018 レポート(1/3 ページ)
MONOist編集部が開催したセミナー「MONOist Future Mobility Forum 2018」では、つながるクルマの進化を支える最新技術について語られた。各社の講演レポートをお届けする。
MONOist編集部は2018年3月16日、東京都内で「つながるクルマの進化を支える最新技術」をテーマとしたセミナー「MONOist Future Mobility Forum 2018」を開催した。
当日は基調講演として「デンソーが考えるMaaS時代に向けたプラットフォーム技術開発」と題し、デンソー 技術企画部 技術戦略室課長の梶岡繁氏が、同社が考える新しいモビリティの社会などについて紹介。また、「CASE時代に活かす『ITサイバーセキュリティ』の知見」として、WHITE MOTION(ホワイトモーション) 最高経営責任者(CEO)の蔵本雄一氏が特別講演を行った。
さらに、ユビキタスによる「コネクティッドカーのサイバーセキュリティの動向」、ダッソー・システムズによる「自動運転時代のシームレスなMBSE/MBD開発」の2つのセッションを実施した。
モビリティとデジタルツイン
デンソーはクルマ・ヒト・モノがつながる新たなモビリティ社会の実現に向け、MaaS (Mobility as a Service)の“イネーブラー”となるべくさまざまな取り組みを進めている。
2025年には「モビリティのネガティブ要因」として、渋滞やエネルギー問題、都市化によって移動しにくい環境に置かれる人々が増加するといったことが顕著になっていくという。デンソーは、全ての人に移動の自由を提供することに、事業として取り組む。梶岡氏は「MaaSは電動化やコネクテッド、自動運転技術を手段として実現するもので、これらの技術の中心に存在している」と説明した。
新しいモビリティ社会では、モビリティがスタンドアロンで存在するのではなく、ITと融合してネットワーク繋がっていく。「これにより、移動する人に合わせて移動手段が提供できるようになる。また、情報化して得られたデータの分析や予測によって、次のサービスにフィードバックしていくことも可能だ。車両の故障予知も普及していくだろう。クルマが何をしようとしているかを分かりやすく示したり、乗っている人を見守ったりする『視覚化』も重要だ。さらに、モビリティに新しい機能を追加して改善し、成長していくようなことも実現できるだろう」(梶岡氏)とさまざまな価値を提供する。
こうした世界では、移動や物流でのモビリティの需要と、自動車や鉄道、航空、船舶といった供給側の高度なマッチングが不可欠だ。需給の組み合わせや予約、決済、双方向の評価などがサイバーの空間で行われるようになる。物理的にあるモビリティの情報をサイバー空間に打ち上げ、モビリティの「デジタルツイン」を作るということだ。実世界のデジタル化に取り組むため「当社でもデバイスだけでなく、コンテンツやサービスを両にらみしながら、モビリティシステムを1つのものとして考える。そのためのソフトウェア開発、ソフトウェアとハードウェア技術、セキュリティなどが必要になる」(梶岡氏)と述べた。
イネーブラーとして
2025〜2030年のモビリティ社会を見据え、デンソーは仕事の進め方を変え始めている。「これまでは仕様書に基づいて部品を開発してきたが、今後、新しい価値を提供する上ではもっと上流もやらなければならない。モノを開発するだけでなく、なぜ必要か、どういったことが必要かという視点で掘り下げてシステムに落とし込むプロセスをとっている」(梶岡氏)。
その中で、自動車メーカーやモビリティサービスのプロバイダーから得られる情報だけでなく、さまざまな2次情報も基にしてモビリティ社会の仮説を構築している。仮説の方向性は国内外の有識者に確認しながら確からしさを作り込み、要件定義につなげていく。PoC(概念実証:Proof Of Concept)を四半期ごとに回しながら、要件定義や仮説の見直しも半年に1度の頻度で行うという。
同社は、モビリティとサービスをマッチングさせるイネーブラーになろうとしており、そのための仕掛けとして、「MaaSプラットフォーム」を提供する。「モビリティからのデータを収集して、必要な情報を選別し、デジタルツインを構築する。これを通じてサービサーがサービスを提供する。車両の制御とも連携する仕組みも提供する」(梶岡氏)。
技術課題となるのは、データを許可された範囲で公開するためのAPI制御や、デジタルツインの中のデータを構造化する技術だ。クラウドとモビリティの通信の信頼性や、エッジ側の処理やクラウドとの処理の分担、他社のシステムとの連携も課題になる。エッジ側には「モビリティIoTコア」を搭載することを検討している。モビリティIoTコアは、車内外とのネットワークとのコネクティビティを担保し、エッジ側である程度のデータ解析を行うための処理性能を持たせる。アップデート機能も搭載する。
MaaSプラットフォームはここから上がってきたデータをデジタルツインに集め、ビッグデータ解析にかけたり、サービサーに提供したりする。デジタルツインは、メーカーや規格ごとの差を吸収して、サービサーが簡単に車両にアクセスできるようにする役割も担う。細かい技術課題としてはセキュリティが重要だし、断続的な通信の中でいかに制御を担保するかが重要になる。
こうしたMaaSを支えるため、デンソーではコアとなるプラットフォーム技術の開発に取り組んでおり、今後の技術力強化に向け研究開発機能の集約や、MaaSの専門部署立ち上げなど組織構築といった施策を展開している。最後に梶岡氏は「1社では難しいということをしみじみと感じている。実務は自分たちだけではダメだと特に感じる。そのために、さまざまな分野の人たちとの仲間づくりを行いたい」と呼び掛けた。
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