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AUTOSARを「使いこなす」ということを考えてみる(前編)AUTOSARを使いこなす(2)(3/3 ページ)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。技術面の解決に取り組むだけではなく、AUTOSARを扱う際に陥りがちな思考から解き放たれることで、AUTOSARともっとうまく付き合っていくことができるかもしれない。

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問3:いろいろなことに縛られすぎていませんか?

 では、「AUTOSARに対する期待は何か?」の議論が、なぜ尻すぼみになってしまうのでしょうか。

 「期待について考えろといわれても……」とお困りの方は少なくないでしょう。言われて比較的簡単に思い付くくらいでしたら、既に「AUTOSAR導入でこのような効果がある」という記事などがあふれているでしょうから。しかし、そういった書き物、少なくとも、日本語で書かれたものは見かけたことがありません。どうやらそんなに簡単な議論ではないようです。

 ところが、欧州では多くの方々がAUTOSARに対する「期待」を口にします。ですから、「期待すべきことはない」というわけでもなさそうです。いったい、どういうことなのでしょうか。

 あるとき思い当たったのが、以下の3点に縛られすぎているのではないか、という疑念です。

  • A.終わりをはっきりさせることを優先し、比較的単純で固定的な目標を設定する
  • B.意思を持って自ら変えようとするのではなく、単に追従する
  • C.(上記2点をぐっとにらんで、一般化してみると)現行の制約の中でできることにしか目を向けることが許されていない(あるいはそうだと思い込んでいる)

 もちろん、これだけではないでしょう。しかし、このような窮屈な枠の中に、自らすっぽりはまりこんでしまっていたとしたら、「期待」を見いだすことは一層難しくなると思いますが、いかがでしょうか。意図するか否かに関わらず、これらの制約に縛られていたとしたら、きっと以下のような状況に陥ってしまうことと思います。

  • a)まずは自分の自由になる範囲だけでAUTOSARを導入し運用した場合について想像してみたが、どのようなうれしさがあるのかが思い浮かばず、それ以上は考える価値がないと諦めてしまう
  • b)AUTOSAR導入によるうれしさについて説明を受けても、自分の自由になる範囲ではうれしくも何ともなく、それ以上進める気にならない(説明する側も、結果として予算やリソースが獲得できず、着手できなくなってしまう)
  • c)AUTOSAR導入による比較的短い期間で得られるうれしさを想定してみたものの、実現の見込みが立たずに苦悩する
  • d)使いにくい標準を、使いにくいまま使い続けることで、AUTOSAR導入が、プロジェクト進行上の重荷となる
  • e)何とか目の前のプロジェクトをやり過ごすことに精いっぱいで、AUTOSARに対する期待を考える余裕がなく、プロジェクトが終わったとしても期待は思い付かないまま(プロジェクトの完了だけが目標となり、AUTOSAR導入によって期待できることをそもそも考える余裕がなく、最後には負担感だけが残り、期待について考える気すらなくなる)
  • f)ふと、「他の立場がこうしてくれたら、あるいは、こんな都合の良い道具があれば、○○ができるのに」という、愚痴に近い思いだけは浮かんでくる(例えば、自動車メーカーの立場では「サプライヤーがこうしてくれたら、○○ができるのに」)

 では、どうやって、抜け出したら良いのでしょうか。

 実は、次のたった一言で解決したことがありました。

「ひょっとして、自力で解決できる制約の範囲だけで『期待』を見つけようとしていませんか?」

 「自力で」という制約の壁が取り払われたとき、先に少し出てきたような「愚痴」は「期待」に転化する可能性があります。さらに解決や実現にまで持ち込めれば、それは立派な昇華です。

 先に、A.〜C.の3つの点に縛られすぎているのではないかという疑念を述べましたが、追加でもう1つ思い当たった点があります。

  • D.「自力で解決できる範囲」ということにあまりにも縛られすぎている

 これは、先述のC.の派生でもあります。

 まずは愚痴からで構いません。以下のような「〜たら/れば、○○できるのに……」ということが思い浮かんできませんか。

  • プロジェクト関係者(自動車メーカーやサプライヤーなど)が、こうしてくれたら
  • マイコンの性能やリソース制約がなくなったら
  • こんな都合の良い道具があれば※2)
  • 自分の権限がもっと強ければ
  • 機能安全やセキュリティなど、いろいろ考慮しなければならないことが多いので、とてもやっていられない、せめて□□と△△は切り分けできたら

※2)たとえ、それが某アニメキャラクターの不思議なポケット以外からは出てきそうにないものであったとしても。マジックは、タネを知っている人にとっては魔法ではありません。もしかしたら、どこかにタネを知っている人がいるかもしれませんから、思い付いたことは何であれとても大切です。

 でも、これらは制約の問題さえ解消されれば、立派な「期待」になりますよね。

 AUTOSAR導入に挑戦してみたことがあるか否かは関係ありません。

 AUTOSARがその「期待」を実現できるようになっているか否かも関係ありません。

 従来実現できたか否かも問題ではありません。

 まずは、「○○したい」ということそのものの洗い出しが必要なのです。実現性や手段はその後で考えましょう。見えかけている結論に安易に引き寄せられてしまったり、それに向かって急ぎすぎたりしないこと、これが重要です。

 さらにもう1点追加させてください。

  • E.AUTOSARに対する自分の理解の範囲だけで、できることか否かを判断している

 これも、先述のC.の派生ですね。

 AUTOSARという新たな標準が持つ可能性、それを自らの理解の範囲や想像力、あるいは、自らが置かれた制約の範囲に押し込めてしまうこと。これこそが、期待の芽や可能性をつぶしてしまっている最大の原因となっているのではないか。これが筆者の見立てです。

 いかがでしょうか。

 では、解決するにはどうしたらよいのでしょうか。

 今回は文字ばかりで長くなりましたので、次回の後編でお答えしたいと思います。

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