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完全自動運転車にかかる「コスト」は誰が払うのか、「法整備」も高いハードルにIHS Future Mobility Insight(2)(1/3 ページ)

現在、自動車業界は、自動運転技術、コネクテッドカー、モビリティサービスなどの次世代技術による大きな変革の真っただ中にある。本連載では、これら次世代技術に焦点を当てながら、自動車が未来のモビリティへ移り変わる方向性を提示していく。第2回は、自動運転車にかかる「コスト」と「法整備」の観点から、その未来像を考察する。

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完全自動運転車とほぼ同じサービスを実現する「タクシー」という仕組み

 前編でも解説した通り、自動運転車が普及するためには、「コスト」の観点が不可欠である。しかし、「自動運転車にかかるコストは誰が払うのか」という議論は進んでいない。これは日本だけでなくグローバルでも同様だ。

 例えば、米国自動車技術会(Society of Automotive Engineers:SAE)が定義した、自動運転レベル4/レベル5に該当する完全自律型の自動運転車(以下、完全自動運転車)が公道を走る場合は、高精細地図とリアルタイムで通信する必要がある。また、位置情報を取得する高精度センサーも不可欠だ。こうした、車両以外の仕組みを維持/運営していく通信コストやインフラのコストを誰が負担するのか。そもそも「いくらになるのか」という議論はほとんどされていない。

自動運転の定義
自動運転の定義。SAEではレベル0〜5に分けており、レベル4/レベル5が完全自律型の自動運転車だ(クリックで拡大) 出典:IHS Markit

 では、利用者は自動運転車に対してどのくらいのコストを負担する――どのくらいのコストなら許容する――のだろうか。ここでちょっと視点を変えてみよう。前編では自動運転車で実現したい“未来像”として、移動中に会議をしたり映画を観たりといった例を挙げた。こうした環境を実現するために、利用者がいくらまでなら払うのかを考えるのである。

 実は、日本では完全自動運転車に近い車両の仕組みが存在する。それは「タクシー」だ。スマートフォンのアプリや電話で呼ぶことができ、行き先を告げるだけで目的地まで運んでくれる。自動車の中では電話会議に参加したりメールを確認したりできる。目的地でも駐車場の心配をする必要はない。

 筆者自身の例で恐縮だが、「オートモーティブ技術アナリスト」という仕事柄、近距離〜中距離の移動については積極的にタクシーを利用するようにしている。それでも、1カ月の利用金額は3000円程度だ。誤解のないように説明すると、「東京都内のどこに行くにもタクシーを利用する」のではなく、「最短時間で正確に、かつ効率よく移動する」手段として積極的に利用しているという意味だ。地下鉄で10分、タクシーなら30分を要する移動では、地下鉄を利用している。

 日本――特に東京――は、地下鉄や電車の公共交通機関が発達している。そうした状況では、お年寄りや身体の不自由な方は別にして、タクシーにどのくらいのお金を払うのか。例えば、「東京23区内限定1カ月タクシー定額乗り放題」という個人向けサービスに、いくらまでなら支払うのか考えてほしい。おそらく月額1万円が上限だろう。つまり、公道を利用して縦横無尽に移動できる完全自動運転車に対しては、月額1万円程度のコストしか負担したくないのだ。別の見方をすれば、利用者が月額1万円以下の負担で済む仕組みを構築しなければ、完全自動運転車の普及は難しいのである。

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