テスラのモデルXを丸裸にする、自動車開発のVR最前線:VR事例(2/3 ページ)
世界の3Dデータ活用の動きは、日本よりはるかに進んでいる。日本機械学会のVE/VR講習会において、テスラモーターズのモデルXを丸ごとCTスキャンしてCADモデルに変換するビジネスや、認証に関する最新動向が語られた。
CADアセンブリーモデルも提供
X線スキャニング自体は以前からある。当社の新しいところは、スキャンデータをセグメントに分け、最終的にCADデータとしているところ」(Vachaparampil氏)。CADデータはIGESやSTEPファイルとして出力できる。「どの企業のクルマについても、CAD化して構造の分析、解析やベンチマークが可能になる」(Vachaparampil氏)。スキャンデータからCADデータを作成するのには3カ月ほど掛かっており、延べ120人ほどのエンジニアが関わったという。「モデルXが初めての例なので、今後これらに掛かるスピードは速くなっていくだろう」(Vachaparampil氏)。
CADデータがあることによりメッシュデータも提供できるため、これを基にしたさまざまなシミュレーションも可能だ。静的試験や衝突試験、捻じれ剛性や流体解析などの例を示した。
さらに車体形状だけでなく、車両全体に張り巡らされたハーネスのモデル化も可能だという。ケアソフトの「Arcadia」というソフトウェアではハーネスを取り扱うことができ、回路図の形で出力できる。またどのピンから入力すればどこに信号が伝わるかといった解析もできる。
ハーネスコストの計算も
Arcadiaの回路図情報を「costCompare」というソフトウェアに読み込むことで、ハーネス関連の製造コストを算出できるという。BOM情報では各社の部品価格がデータベース化されており、線の長さから重量を算出、また各国で各社のコネクターがいくらで購入できるかといったデータも登録されている。そのためコネクターの品番を読み込めば、それらの価格が自動で出てくる。
ソフトウェアでは各国の労務費のレートをカバーしている。組み付け工数もハーネス回路図から自動で算出できる。これらにより例えば北米でハーネスを製造するといった条件ごとのコストを算出できる。
「現在は回路だけに対応しているが、さらにシートなどにも算出範囲を広げるべくソフトウェアを開発している」(Vachaparampil氏)。データの読み込みはArcadia以外にも対応している。
ECUなどに関しては部品が小さいためX線でキャプチャーするのは難しい。そのため分解して実物を確認している。「ECU内の各シグナルがどのように伝わって動いているかといった情報を求めている顧客もいるため、個別での解析も引き受けている」(Vachaparampil氏)。
高エネルギーX線スキャン技術により、車両1台分の3次元CADデータを短期間で得られるようになる。さらに3Dモデルや回路図、またメッシュ作成によるシミュレーション、さらにハーネスなど値段の算出、電気回路系の設計の分析など、各種解析を行えることにより開発スピードと精度が向上する。「これまでのリバースエンジニアリングの範ちゅうでは不可能だった、包括的な分析ができる」とVachaparampil氏はいう。「例えばテスラがどのような設計思想で開発しているのか、強みや弱点は何なのかを分析してもらえる。包括的なベンチマークデータを提供できるため、設計、製造、組み立てなどのエンジニアリングの視点からの深い車両の理解が可能になるだろう」(Vachaparampil氏)。今も新たに数件のスキャンおよびデータ化を進めているということだ。
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