人工衛星は輸出産業になれるか、NECが「ASNARO」に託した願い:宇宙開発(4/4 ページ)
日本の人工衛星開発を支え続けてきたNECが、宇宙事業の拡大に向けて開発したのが小型衛星「ASNARO(アスナロ)」だ。同社は、ASNAROを皮切りに、宇宙事業の国内官需依存からの脱却だけでなく、宇宙ソリューションビジネスの立ち上げをも目指している。
メーカーからの脱皮へ
NECはこれまで、衛星を製造して販売するメーカーの立場であったが、ASNARO-2では初めて、衛星を自社で運用して、撮影画像の販売にも乗り出す計画だ。同社にとっては、宇宙機器産業から宇宙利用産業への、事業領域の拡大となる。将来的には、データの利活用を進め、ソリューションとして提供していくことを考えているという。
顧客が真に求めているのは単なる画像データではなく、ソリューションだ。画像データを自ら活用できる顧客なら良いが、そのノウハウが無い顧客に対しては、ソリューションとしてサービスを提供する必要がある。ソリューションを提示して新規顧客を増やせば、宇宙利用産業が拡大するし、結果として、それが宇宙機器産業へのニーズの増加につながる。
NECの宇宙事業では、衛星やセンサーのほか、衛星管制やデータ処理のための地上システムも手掛けている。また大手電機メーカーとして、自社内にAI(人工知能)やビッグデータなどICT(情報通信)技術もそろっているので、これらを組み合わせれば、ワンストップで宇宙ソリューションを提供できる。これは同社の大きな強みだ。
新興国への衛星の売り込みでは、これは特に大きな武器になるだろう。付加価値を打ち出せば、単なる価格競争に陥ることを避けられる。経産省も、人材育成やファイナンスなどをパッケージ化するなどして、衛星輸出を後押しする意向だ。
衛星の輸出に成功し、ソリューションとして価値を創出できれば、それはインフラとして定着する。ASNAROの設計寿命は5年程度なので、インフラを維持するためには、定期的な衛星のリプレースが必須になる。長期的なニーズも期待できるわけだ。
植物のアスナロはヒノキに似ているため、「明日はヒノキになろう」が語源という説がある。NECもASNAROにより、将来は衛星のグローバルプレイヤーになれるか。同社の戦略を実現するためには、まずASNARO-2の成功が欠かせない。打ち上げ後、宇宙からどんな観測画像が届くのかに注目したい。
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