国境が阻むITSの変革、欧州は「クロスボーダー」で主導権を握れるか:ITS EU会議2017 レポート(2/4 ページ)
アジア太平洋地域、北米、欧州で持ち回りで開催されるITS世界会議。2017年はカナダで行われる。ITS世界会議が欧州以外で開催される年には、欧州委員会が「ITS EU会議」を開く。会場で見えてきた、トラックの隊列走行や自動運転シャトルサービスなど欧州が注力する分野の現状と、曖昧な今後の方向性を紹介する。
「CAD」を主体としたフォーメーションへ
ではここで、欧州におけるITSの全体図を整理しておきたい。主体となるのは、2017年で設立25年目をむかえるERTICO(European Road Transport Telematics Implementation Coodination Organization)だ。日本のITSジャパンと同じように官民で連携しており、ERTICOの参加企業と組織体は合計120社を超える。
ERTICOには現在、下記の4つアクティビティーがある。
- CAD(Connected and Automated Driving)
- Clean Mobility
- Trasport & Logistics
- Urban Mobility
それぞれのアクティビティーの下にはさまざまなプロジェクトがあり、複数年の実施期間が設けられている。CADでは、CARTRE、AUTOPILOT、EU EIP SA4.2、CloudLSVA、inlane、VI-DAS、SAFESTRIP、UDRIVE、BIG DATA EUROPE、ETPC、TN-ITS、ADASIS、SENSORISと13のプロジェクトがあるが、何の略称なのかを覚えるだけでもひと苦労だ(※2)。
また、EV(電気自動車)などを扱うClean Mobilityではプロジェクトは4つ、Transport & Logisticsでは5つ、そしてUrban Mobilityでは7つあり、こうしたプロジェクトの数を見ただけでも近年のERTICOにとってCADが最重要課題になっていることが分かる。
各種プロジェクトは2〜3年ほどで終了した後、新たなプロジェクトが始まり、場合によっては新旧のプログラムが連携するため、欧州の自動車メーカー関係者にとってもERTICOの実質的な推進状況を総括的に把握するのは難しいという。
実際、2016年10月から2018年9月まで実施されるCARTREに関するセッションに参加したが、質疑応答の際にはERTICOの各種プログラムの名前が飛び交い、筆者は頭の整理ができなかった。
(※2)CARTRE:Coordination Of Automated Road Transport Deployment For Europe
EU EIP:EU European ITS Platform
CloudLSVA:Cloud Large Scale Video Analysis
inLane:GNSSとコンピュータビジョン技術による車線単位でのナビゲーション技術、自車位置の測位。
VI-DAS:Vision Inspired Driver Assistance Systems
SAFESTRIP:既存の道路インフラにC-ITSアプリケーションを組み込む取り組み。
UDRIVE:乗用車から商用車、二輪まで自然な運転の様子を研究する。
ETPC:European Truck Platooning Challenge
TN-ITS:Transport Network ITS
ADASIS:Advanced Driver Assistance Systems Interface Specifications
SENSORIS:ロケーションクラウドの規格。地図会社のHEREが設計した。
自動運転のレベルの定義はSAEに準拠
次に知っておきたいのが、ERTRAC(European Road Transportation Reasearch Advisory Council)だ。EC(European Commission:欧州委員会)と自動車産業に関連する企業らで構成される、技術的なプラットフォームを構築するための組織体である。そのため、欧州において自動運転に関する技術的な解釈は、ERTRACが取りまとめる。
今回のITS EU会議の開催に合わせてERTRACは、「Automated Driving Roadmap」を改訂。Automated Driving Roadmapは2015年にフランス・ボルドーで開催したITS世界会議で公表されたもので、自動運転のレベルの定義は米国自動車技術会の「SAE J3016」に準拠するとした。
2016年9月に米国高速道路安全局(NHTSA)がそれまで仮に設定していた自動運転のレベルの定義を見直し、SAE J3016に準拠することを表明。これを受けて、自動運転のレベルの定義でNHTSA準拠を基本方針としてきた日本もSAE J3016を採用することになっている。こうした米国や日本での流れに欧州も沿うことになる。
今回の改訂で興味深いのは「Road definitions(道路の定義)」を3つの領域に分けたことだ。そのなかで最初に記載されている「Confined Area」は物流ターミナルや港を意味し、2つ目の「Dedicated road/lane」とはバスやタクシーなどの専用レーンや駐車場を指す。そして市街地や高速道路などは「Open Road」と呼ぶ。その上で、3つの道路の領域におけるさまざまな自動運転の状況を仮定し、それらが自動運転のどのレベルに相当するかを明確に示した。
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