新たな時代を担う組込みシステムの技術者に求められるものとは:組込み適塾 塾長 井上克郎×SEC所長松本隆明(後編):IPA/SEC所長対談(4/4 ページ)
情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。前編に続き、組込みシステム産業振興機構(ESIP)が推進する「組込み適塾」の塾長で、大阪大学大学院教授の井上克郎氏に、人材育成と組込み技術の未来についての考えを聞いた。
産官学連携には“雑談の場”が功を奏す
松本 IPA/SECも産官学連携をテーマにして取り組みをしています。産業界と大学の連携で、お互いの距離を縮めていくには何が必要なのでしょうか。
井上 劇的な方法はすぐに思いつきませんが、お互いに敷居を低くしていく必要はあると思います。過度な期待をせず、雑談できるような環境が大事です。大学の人も、産業界に出ていく必要があります。ソフトウェア工学を研究している人にとって、ソフトウェア自体にあまり意味はないはずです。動いて、使われて初めて意味を成すのです。役立てている人の意見を聞き、ソフトウェアについてあらためて考える必要があるでしょう。机上だけで論ずるより、現場に出ていき使っている人たちのフィードバックをもとに研究していく必要があると思います。企業の人には「大学はとっつきにくいかもしれないが、雑談から始めて欲しい」と話しています。雑談の最中に「ここに問題がある」と言われれば、「既に研究している」「それはちょっと難しい」などと気軽に返せます。お互いの敷居を低くして、気楽に話せる場を持ちたいと考えています。そういう意味で、ESIPは役に立てるのではないかと思っています。
松本 直接話す機会がなかなかないのかもしれませんね。
井上 大学の人もなかなか忙しく「論文を書け」と言われています。企業の人と話をしても、すぐに論文に結び付くとは思えないのかもしれません。ただ、長期レンジで見ると、しっかりとニーズに向かった研究につながります。
松本 ニーズに基づいた研究であれば、現場ですぐに実践につなげられます。
井上 卒業生は実際そのように活躍しています。
松本 “雑談の場”を作らないといけないのですね。
井上 積極的に大学の人も出ていかなくてはならないし、企業の人にも入ってきてもらいたいと思います。解決策を即座に期待するより、お互いに1時間の雑談を楽しむことが良い結果に結び付くような気がします。いろんな人と話していただくことが大事ではないでしょうか。
松本 IPA/SECもソフトウェア工学に取り組んでいます、私共に対する要望や期待などがあれば教えてください。
井上 ソフトウェアの大元締めとして様々な施策を実施していらっしゃいます。これからも中心的な活動をしていただきたいです。今、ソフトウェアに風が吹いていると思っています。安倍首相が「小学校からプログラミング教育」と言っていたり、文科省でも情報技術が中核として重要だと言っていたりします。IPA/SECはその中心として、日本のソフトウェア業界を引っ張っていただきたい。日本のソフトウェアが世界に出ていくような教育を進めたり、国際交流の場を設けたりしていただけると嬉しいです。
ソフトウェア産業は輸出できないと言われています。今後は、日本から外に出ていくような工夫が必要だと思っています。日本からのオープンソースで世界に貢献しているものが少ないと言われているため、IPA/SECの支援で共同開発したり、コントリビューターに支援したり、日本人が世界のコミュニティに入っていくための後押しをしていただきたいですね。
松本 国際化の話は確かに必要ですね。大学や企業だけでは難しいのかもしれません。
井上 企業は戦略的にオープンソースに投資しています。アメリカの企業などはそうです。日本の企業もメリットを感じられれば進めていけると思います。官のほうで人材育成の一環として、オープンソースの共同開発に投資しても良いのではないでしょうか。すぐにメリットが見えないかもしれませんが、人材教育の一環なら進めやすいと思います。
松本 国際的に通用する人材を育てるのは非常に重要ですね。日本産のプログラミング言語「Ruby」を国際的にしようとIPAも力を入れた時期がありましたが、これに続く国際化の支援活動をぜひ考えていきたいところです。今日は貴重なお話しをありがとうございました。
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