トヨタとNVIDIAの協業から見えてきた、ボッシュとコンチネンタルの戦争:NVIDIA GTC 2017 レポート(2/4 ページ)
NVIDIAは開発者会議「GTC(GPU Technology Conference)」の中でトヨタ自動車との協業を発表した。日系自動車メーカーの技術関係者は「まさか!?」「意外だ」と驚きを隠せない。これから起こるサプライチェーンの大変革とは。
自動運転とAIに関して数多くの発表あり
さて、サプライチェーンの大変革について考える前に、今回のGTCで行われた自動運転とAIに関する動きを追ってみたい。
初日の午後は、「DRIVE PX2」の技術概要が発表された。NVIDIAはこれを「AIカー コンピューティングプラットフォーム」と呼ぶ。同社は、GPUを活用したAI技術の量産化の領域の例として、医療、農業、海底探査、都市開発、音楽・映像・ゲームのクリエーション、そしてトランスポーテ―ションを上げている。そのなかで、トランスポーテ―ションについては“AIカー”と呼び、米運輸省道路交通安全局が規定する自動運転レベルの2〜3、及び4〜5まで対応する。
DRIVE PXというパッケージは、2015年1月に米ラスベガスで開催された「CES2015」で初公開され、その際、筆者はNVIDIA主催のプレス向け会見でファン氏の熱弁を直接聞いた。
これまでの数年間、CESにおけるNVIDIAは、ドイツAudi(アウディ)と共同開発した各種の自動運転車を公開したり、また米国Tesla(テスラ)のインフォテイメント向けのGPU提供について紹介したりと自動車がらみの露出を徐々に増やしていた。
さらに時計の針を戻すと、2014年のCESでは、インフォテイメントに関する連合体のOAA(Open Automotive Alliance)の会見で、アウディの技術幹部がDRIVE PXの原版といえるサーキットボードを手にし、過去数年間で演算装置の処理能力が急速に高まったことにより、自動運転の制御系がここまで小型化することができたと主張した。
この時の会見直後に筆者はフアン氏に、車載インフォテイメントや自動運転などの標準化について意見を求めたところ、「さまざまな分野で必要であり、これからも各方面とのつながりを並行して行う」と答えている。
このような2014年、2015年の各種発表を基盤として、2016年のCESでは量産を前提として改良されたDRIVE PX2が発表され、続く2017年のCESではアウディが姿を消した。その理由は、DRIVE PX2の性能が確立され、量産車向けの実装段階となるなか、アウディにとってマーケティング活動としてCESの活用価値がなくなったからだ。換言すると、NVIDIAにとってもCESを踏み台とした自動車メーカー各社に対するセールス活動が軌道に乗ったということだ。
事実、今回公表されたDRIVE PX2の契約状況では、2017年会計年度の第2四半期では数社程度だったが、同第3四半期では一気に合計50社まで拡大することが決まっており、続く同第4四半期では合計60社、さらに2018年会計年度の第1四半期には200社近くへと跳ね上がる。NVIDIAとしては、ここで一気にDRIVE PX2によって、AIを絡めた自動運転向けハードウェア及びソフトウェアのデファクトスタンダードに持ち込む機運が高まっている。
その上で、DRIVE PX2を介したトヨタ自動車とのAI分野での開発提携は、NVIDIAにとっての“最高のマーケティングツール”である。過去のCESでは、アウディとの協業によってプロトタイプを進化させ、今後は量産がかかるタイミングでトヨタ自動車との連携を社内外に向けて強くアピールするという、巧妙な戦略である。
なお、トヨタ自動車は高齢者や身体の不自由な人向けの生活支援ロボット「HSR」に、NVIDIAが組み込み型のAIコンピューティングプラットフォームとして市販している「Jetson」の初期型である「TX1」を採用している。
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