立ちはだかりし実践の壁とあふれ出す批判――3D設計推進者の憂鬱:3D設計推進者の眼(20)(1/3 ページ)
機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。「3D CADを使ってくれない」「PDMで大騒ぎ」「CAEへの重すぎる期待と辛らつな声」など、今回は3D CAD推進の現場の声と、推進者の心の叫び(?)をお届け。
前回は「SOLIDWORKS WORLD(SWW) 2017」(2017年2月)への参加から間もないタイミングだったこともあって、将来展望的な3D CADとCAEの話をしました。春から夏にかけて国内で設計製造関連の展示会が多く開催される時期で、新しいソリューションの情報もよく聞こえてきます。ここ最近は「VR元年」と言われたように、設計製造系の企業向けとしたたVR(virtual reality:バーチャルリアリティー、仮想現実)ツールの話題が急増しました。
一見すると華々しく、順風満帆かのように見える3D CAD周辺ですが、3D CAD推進者として、同じ立場の人や、実際の3D CADユーザーの方々と話をすると、さまざまな悩みを聞きます。ユーザーだけではなく、ベンダーの方々や、関連のソリューションを提供する方々からもです。
ある企業の方から、こんな相談をされました。
「3D CADの立ち上げが簡単だと思っている人たちがいる。そうではないと説明がしたいが」
私はこのように話しました。
「確かに、3D CADはツールとしては誰もが使えるようになるものだが、設計の仕組み、後工程への設計成果物の供給方法、製造部門での活用、3D CADデータの構築へ検討など、さまざまな課題がある。そのため、プロジェクト化して取り組んでいく地道な活動をしていくことで成果を得ることが可能だ」
後に、その企業では、新たにプロジェクトチームが結成され、推進も始まりました。きっと地道な作業の中、成果を出しつつあるのではと信じています。
もちろん私自身も、3D CADを推進してきている上で、壁にぶつかることは多くあります。成熟した分野であるはずなのに、不思議です。だから私がここに記事を寄せているのでしょうね。
「どのように3D CADを社内展開していったらいいのか」という悩みについて、この連載でもたびたびお話ししてきましたが、Tech Factoryの「設計・製造現場を変革する3D CAD/3Dデータ活用」では、プロジェクト論として、もう少し掘り下げて説明しています。
そして、これらの記事を書く私自身も、3D CADの立ち上げプロジェクトでは、準備を行い、計画を立てて、進めてきました。
そのはずなのに、その過程では必ず問題が起こってしまいます。
3D CADを使ってくれない
例えば、ライセンス数が十分な数ではない場合、立ち上げがうまくいかないだろうということは容易に想像がつきます。しかしライセンス数が立ち上げ時に十分であるにもかかわらず、順調にいかないことがあります。
つまり、3D CADを導入しても、「使ってくれない」「使えない」という問題が出てくるのです。
その理由としては以下のようなことが、次から次へと出てきます。出来ない理由を言うのは、人が得意とするところですね。
2D図面で満足な設計が出来ているよ!
え、本当に?
2D図面でカスタマイズや図面修正が十分できているよ!
そうは言っても干渉はあるのはなぜか? 部品バラシで間違いが生じていることもあるよ……。
解析を行う部分は一部要素のみで、設計として3D化の必要性を感じていない。
解析用のモデルを作成するのは解析者なんだけどなぁ……。3Dモデルから見る解析結果をどれだけ理解しているのだろうか。
それよりも出図までの時間勝負!
確かに時間がなさすぎるけど……
設計者が潤沢にいないんですけど……
確かにウチは十分な人数の設計者はいないけど、大企業は大企業なりに、中小企業は中小企業なりに、人員不足なところは多いよ。
私も一人の設計者です。出図までの時間が不十分な中、単能機対応を強いられているような設計者に対して、無理やり「3D設計をしなさい」とは言えません。
「そもそもこの成熟した製品に対して、わざわざ3D設計が必要なのだろうか……?」
と考えても、
「成熟した製品とはいえ、設計品質上の問題は発生しているし……」
「このまま放置していても、設計品質上の問題はなくならないだろうな……」
ということになってきます。
2D CADを廃棄して、強行的に3D CADのみの作業にするようなことは、現状の業務を維持することを考えれば不可能です。一方で、2D CADを頼りにしてしまうことは、3D CAD化を妨げる足かせ(行動を妨げるもの)になっていることも、現場で見ていて明らかです。
実は、これが私の憂鬱であったりもします。それは、理論だけでは超えることの難しい、実践の壁だといえます。
現在もある新規事業については、徹底的に3D CADを駆使した設計を行っています。しかも、マルチ3D CAD環境での詳細設計です。3D CADだからこそ実現した事業だと私は確信しています。しかしながら、その業務も設計者数全体から考えれば、40%に過ぎません。経営層から見れば、「低い」「何をしているのか」と言われてしまうのです。期待値が高いからでしょう。
当然のことながら運用を行えば、既存の(過去からの)システムとの不整合も生じる可能性はあります。実際には、3D CADと部品表連携との問題、同一CADのバージョン間の設定の問題が生じていますが、味方をしてくれる設計者との相談の下で対応しているというのが実態です。
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