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フォックスコン顧問が伝える日本が技術開発立国を目指すべき意味モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

金型専門見本市「INTERMOLD2017/金型展2017」(主催日本金型工業会)および「金属プレス加工技術展」(日本金属プレス工業会)の特別講演に立った東京大学名誉教授の中川威雄氏は、「経営者に厳しさが不足している」や「製造業以外の産業が非効率で足を引っ張っている」「高度な新技術に賭け、技術開発立国となることが必要」などの持論を述べた。

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 金型設計・製造から成形ソリューションまでを紹介する金型専門見本市「INTERMOLD2017/金型展2017」(主催日本金型工業会)および「金属プレス加工技術展」(日本金属プレス工業会)が2017年4月12〜15日まで東京都内の東京ビッグサイトで開催された。特別講演では、東京大学名誉教授で、鴻海精密工業 特別顧問、シャープの社外取締役などを務める中川威雄氏が「日本の製造技術の底力に期待する」をテーマに講演を行った。

 中川氏は東京大学の生産技術研究所でプレス加工、金型成形、切削や研磨加工など数々の新技術開発に挑戦してきた。1999年に定年退職後、東京都大田区でファインテックを創業。現在もモノづくり技術の研究開発を続けている。これらの開発技術は台湾の世界最大のEMS(電子機器受託生産サービス)企業である鴻海精密工業(Foxconnグループ)の技術向上にも生かされている他、2016年からはシャープの社外取締役としても活躍中だ。今回の講演では同氏のこれまでの実績とともに、グローバル競争の時代の中で、日本の製造業のおかれている厳しい現状を紹介するとともに、日本のモノづくりに対する提言を行った。

金型技術を極め、鴻海精密工業 特別顧問に

 中川氏の研究者時代の実績には、大学院時代の棒材の精密せん断法の研究開発からはじまり、理化学研究所時代に研究開発した打ち抜き穴の伸びフランジ性の研究などがある。さらに東大生産技術研究所に勤務していた当時は、コンクリート補強用鋼短繊維の製造、びびり振動切削による微細金属短繊維の製造、自由曲面の高速ミーリング加工、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化(気泡説)、鋳鉄ポンドダイヤモンド砥石と研削技術、電解インプロセスドレッシング研削、CNCサーボ駆動の粉末成形機の一般化とサーボモータ板金へ展開など、数多くの生産技術の研究開発を行ってきた。

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東京大学名誉教授の中川威雄氏

 中川氏は「新しい加工プロセスを開発し、企業と連携して実用化してもらう。この流れを実現するには生産現場で困っている課題をよく知ることが必要だった。いくつかの実績が出るようになると多くの人が相談に訪れるようになり、さまざまなニーズが集まってくるようになった。その結果、最初は5年に1件としていた実用技術開発が、数年後には年1件を目標に掲げ、実現できるようになった」と当時を振り返る。

 また、この時代について中川氏は「恵まれた研究環境であり、優秀な人材の協力が得られかなりの研究成果が残せた。特に日本の製造業の協力を得られたことが大きかった。政府の産学連携のきっかけにもつなげられたのではないか」と述べる。さらに「モノづくりは奥深く、応用面は広く、どこまで進んでも終わりがない。努力と工夫次第で進歩するということを悟ったような気がした」とモノづくりの奥深さを強調する。

 中川氏は同研究所に在籍中、日本の金型技術振興の重要性に着目し「型技術協会」の活動にも力を注いだ。アジア地域の国際協力の一環として国際会議も開催し、1985年のシンガポールでの会議での会場で知り合ったのが台湾金型工業会の会長になったばかりの郭台銘氏(現鴻海精密工業会長)だった。当時は鴻海精密工業の社員数はまだ240人で、家電部品やコネクタ部品の射出部品の製造を中心とした企業だったという。

フォックスコンが持つ日本にない強み

 この出会いを機に親交が深まり、東京大学の定年退官後に鴻海精密工業の特別顧問に就任した。この当時中川氏が感じたのは鴻海精密工業の決断の速さだった。「ノートPCのケースにマグネシウムのダイスカストを提案したところ、すぐに担当者が決まり、半年後には試作体制ができ、一年後には量産が始まった。このスピードには驚かされた」とその一端を裏打ちするようなエピソードを披露した。

 また、鴻海精密工業の強みとして、大量生産への対応、急速立ち上がりへの対応、製品の企画や製造丸投げへの対応、大量調達によるコストダウン、大規模設備や人材の有効活用、組織的集団人材教育訓練などを挙げる。また鴻海精密工業の場合、新規分野参入でも樹脂成形と板金プレスと組立ての実績を活用し「金型技術で迅速開発を行う」ことが強みとされていた。そのため「(よく指導した当時の)鴻海精密工業には金型工の社員が約3万人従事していた(日本全体でも6万人といわれている)」(中川氏)ということも紹介した。

 2000年に設立したファインテックは40人程のモノづくりの技術開発企業で、親会社の鴻海精密工業から研修生を受け入れながら、技術開発の実績を上げる取り組みを続けている。また「これまで100人程の若い中国研修生を受け入れたが、帰国後一人前の立派な技術者として活躍している」と、人材育成にも貢献しているという。

 このように、モノづくり技術開発を始め、人材育成などのさまざまな経験を積んできた中川氏は日本のモノづくりと、製造業の将来についての持論を述べる。

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