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不景気でも誰も解雇せず、皆で学び続け、自社製品を生む金型工場zenmono通信(3/3 ページ)

モノづくり特化型クラウドファンディングサイト「zenmono」から、モノづくりのヒントが満載のトピックスを紹介する「zenmono通信」。今回はユニークで便利なファイリングツール「NOUQUE」を開発した、キョーワハーツ 代表取締役 坂本悟氏が登場する。

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enmono 丸く囲い込むとプレスしづらくないですか?

坂本 これは加工としては、結構難しいんですが、当初はふくよかな感じだったんだけど、そこを加工側と相談して「このレベルならできるよ」ということで。これはステンレスのバネ材を絞ってるので、結構難しいっちゃ難しいんだけど、

enmono 「しなってとどまる」感じですか。

坂本 そうです。これ、戻ってくれないとロックがかからないので。このデザインでグッと商品価値が上がったと思います。

enmono しっくり感って何度もやらないと出ないですもんね。プロトタイプと比べて格段の質感の違いがあります。

enmono 発明家さんからするとここまで進化したというのは驚きだったんですか?

坂本 そうでしょうね。いろいろな方のアイデアが入っているので。当初はこのカバーもなかったりとかね。「カバー付けないとダメだよ」と言ってくれたのが、横浜企業経営支援財団(IDEC)のものづくりコーディネーターで、松葉憲英さんという方です。僕は部品点数が増えちゃうから「うーん」と思ったんだけど、そのおかげで中の機構を見せない形になりました。そういう意味でもカバーができてさまざまなことができるようになって、安全性も高まったんです。

苦しい時期を乗り越えて醸成された社風

enmono アドバイスをいただいても、それを実現するのってすごく大変ですよね。現場から「できません」って言われたらそこでおしまいなわけですしね。

坂本 ウチの会社の人たちは、いきなり「ノー」とは言わず、「検討します」と言ってくれます。まず受け止めて、それからどうすればできるか考えてみようよ、という基本姿勢です。震災の年に産技研へ一緒に勉強に行ったメンバーが中心になってやってくれていますね。それと金型の責任者の――彼はマーケティングの勉強に半年間通ったんだよね。

enmono 金型の設計者がマーケティングの勉強をするってすごいことだと思います。

坂本 金型の仕事って不安定じゃないですか。ある時はあるし、ない時はない。それも、人任せになってしまうんです。

enmono 経営者はそうだけど、社員さんもそこまで共有するものなんですか。

坂本 やっぱり、リーマンショックの後に仕事がドーンとなくなって、雇用安定助成金をもらって、交代で休むといった形で急場をしのぐケースが見られましたけど、ウチはもう、「休むんじゃなくて研修しよう」って言って、毎週「研修の日」を設けて、いろいろやりました。

enmono さまざまな情報を仕入れて、何かしらにつなげよう、と。

坂本 商品開発みたいなこともやったし、材料メーカーの人に来てもらうとか、コーチングの勉強だとか、いろいろなテーマでやりましたね。毎週、半年くらいやったかな。講師、いろいろな人に頼んでね。

enmono そういうのが、今に生きてるんですね。

坂本 厳しいところをみんなで耐えた。僕はその時、絶対首は切らないよと宣言したんですよ。その代わり、半年くらい給料を10%くらい下げてもらって……。

enmono すごい、それで乗り切ったんですか?

坂本 それで分岐点を超えるわけではなくて、ずっと“マイナス、マイナス”で行ってたんだけど、絶対「雇用に手を付けちゃいけない」という思いがありました。この状況を脱却するために、皆で勉強して新しいことに取り組んでいこうよ、と。そういうのがつながって、今に至っているのかな、と。厳しい時があったから、今も自分たちで商品開発に取り組めるわけです。「仕事ください」じゃなくて「これ買ってください」と言っていける、そういうポジションに自分たちを持っていけたと思います。

enmono リーマンショックを経験した他の町工場もたくさんありますが、自社商品を開発しようと舵を切っている町工場って、坂本さんの周りで……、どうですか? 増えてます?

坂本 そんなには増えてないんじゃないですかね。

enmono ですよね。やっぱり今までと同じような下請型ビジネスの方がおいしいっていうか、安定というか。他の会社さんはそこからなかなか抜け出せない感じなんですかね。そこまで決断できなかったということなのか……。

坂本 どうなんですかね。それはよその会社さんのことなのでなかなか。でも中には……、横浜市でもYOKOHAMAブランドを作ろうみたいなね、さっきのIDECさんや横浜市の文化観光局がデザイナーと町工場をドッキングさせる事業を2013年くらいからやっていて、ウチもその中に入れていただいています。ヌーケの次のテーマもその中から出てきて、今ちょうど金型作ってるところなんです。特許をこれから出さないといけないので、ちょっと申し上げられないんですけど(収録当時)。

enmono それは楽しみですね。

坂本 そのテーマでモノ補助(ものづくり補助金)を申請して審査もパスしました。補助金もうまく活用させていただきたいと考えています。やっぱり補助金を取ると、さっき申し上げたように「ここまでに完成させないといけないよ」となるので、「これって案外いいんじゃないの?」と感じています。

日本のモノづくりの未来

enmono これからの日本のモノづくりがどうなっていったらいいかということに思いがありましたら、あえて“大上段から”語っていただきたいと思います。

坂本 日本のGDPもどんどん低落していってるということと、海外生産がなかなか止まらない、というか、市場が海外にあるので必然的にそうなっていく、という状況です。「日本発の何か」ね……、「日本ならではのモノづくり」っていうか、日本のメーカーがiPhoneやiPadみたいな革新的なものを、大手さんが考え出すっていうこともあるかもしれないけど。そうじゃなくて、われわれ町工場自体が自立して、大手さんとも連携して、やっていけばいいと思うんですよね。今回のファイルのことをきっかけに、例えば大手文具メーカーさんと商品開発できないかな、と。それも小野さんのアイデアだったんだけど、そういう話があります。

enmono 契約する方向で進んでいるんですか?

坂本 今はまだ、向こうに話を持って行ってる段階です。

enmono やっぱりヌーケが、「お客さんを持ってくる」営業のツールになるということですね。これがあるから、「じゃあ、一緒にやりましょう」という話にもなる。

坂本 そうですね。大手さんとの協力という点では、皆さんご存じでしょうけど、富士通さんが今、休眠特許を開放するっていうことをやっていて、それで1回ウチにも来ていただいたのですが、面白そうなテーマがあるなぁと思っています。

enmono 富士通さんはいろいろな動きをしていますね。開放特許もあるし、あと外の人と積極的にコラボレーションするようなハッカソンという場所を作ったりとか、今度、TechShopというオープンのDIYスペースを六本木に作ったりとか。

坂本 ああ、それは知らなかったです。

enmono 私たちが今注目している企業の1つです。もし何かご興味あればつなぎますよ。文房具という市場は世界中にありますから。

坂本 海外で売れるんじゃないの? と言ってくださる方もいて、今ちょっとJETRO(日本貿易振興機構)さんに相談して、海外から文具のバイヤーが来るらしいんです。そのマッチングの機会もあるような話を聞いたので、そういうところへ出させてくださいということはお願いしてあります。

enmono お役所とか……、後は法律関係ですかね。そういうところにはニーズがあるんじゃないですかね。

坂本 ウチとしてはそういうさまざまなアイデアをお持ちのメーカーさんたちと一緒にこう……、ネットワークとか連携とか、そういうこともちゃんとやりたいんです。世の中にはアイデアはあるけれども商品化されないものが山ほどありますから。

enmono そういうアイデアをお持ちの方、一緒にコラボしたいという方、ぜひお問い合わせください。

坂本 金属を使うものであれば。お声がけください。なるべく金属を中心にやっていきたいと思っています。

enmono 今日はお時間をいただきましてありがとうございました。

坂本 ありがとうございました。

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