高精度技術はスマホから宇宙へ――中島田鉄工所:オンリーワン技術×MONOist転職(9)(1/4 ページ)
日本の“オンリーワンなモノづくり技術”にフォーカスしていく連載の第9回。今回は、スマホの極小ネジ製造装置から航空宇宙関連事業まで、高精度な加工・組み立て技術で挑戦を続ける中島田鉄工所を紹介する。
年の瀬も押し迫る2016年12月9日、ある報道が世間の耳目を集めた。種子島宇宙センターから飛び立ったH2Bロケット6号機搭載の無人補給機「こうのとり」に積み込まれた超小型人工衛星の一つを、九州のモノづくり中小企業が開発したというニュースだ。ただし「下町ロケット」を地で行くストーリーを期待すると、それは少々違う。開発した福岡県広川町の中島田鉄工所は、ヘッダー(パーツフォーマー)の分野でトップシェアを誇る世界屈指の企業だからだ。
スマホの極小ネジ製造装置から宇宙開発まで、オンリーワン技術で挑戦を続ける同社の強みを探った。
“あのスマホ”の極小リベットでも同社ヘッダーが活躍
ヘッダーとは、さまざまな工業製品に幅広く利用される金属パーツを塑性加工で制作するためのプレス工作機械のこと。通常、プレス工作機械は板材を打ち抜いて塑性加工させるが、ヘッダーはワイヤー材を使って機械の中で切断し立体的にプレスしていく。ヘッダーで作られる代表なものはネジやボルトだが、頭の部分を成形するという意味での「Header」が語源となっているように作られたパーツにはネジが切られていなく、ネジを切るのは別の機械(ローリングマシン:転造盤)で行う。このヘッダー技術を応用し、さまざまな形状を成型するためのプレス工作機械がパーツフォーマーと呼ばれている。
同社は材料となる線材の直径が1mm以下から20mmまでの小型・中型ヘッダー/パーツフォーマーを主力製品とし、特に2.5mm以下のヘッダー分野では世界シェア50%、国内シェア80%を誇る。
市場で支持されている同社の強みは「精度」だ。これまでヘッダー化が不可能とされていた時計、PC、携帯電話といった小型精密製品や自動車、航空機などの重要保安部品で、同社のヘッダーが使われている。日本でシェアの高い“あのスマホ”に使われている極小リベットでも、同社のヘッダーが活躍しているのだ。
1911年創業と100年以上もの歴史がある同社は、農業用肥料の混合器や番傘の骨の竹を割く機械などから始まり、戦時中の軍需工場などを経て、戦後は自動車のクランクを再生する研磨盤の製造を開始。同社の中島田正宏社長は「1948年から着手したこの事業が当社の精度へのこだわりの原点」と語る。
「当時の自動車は、エンジンを何回もオーバーホールして再利用するというのが主流であったため、クランクのバランスを取り直すといったニーズも高かった。自動車用クランク軸を再生する研磨盤は、高い精度を必要とする。ここで精度を上げていく技術や高度な組み立て技術が培われ、産業用工作機械を作る基礎ができた」(中島田社長)。
ヘッダーの開発は1960年から。当時のヘッダーは海外メーカー製がほとんどで、サポート面も含めて国産ヘッダーへの要望が高まっていた。同社の研削盤での高い精度のモノづくりが認められ、顧客からの要望で高速ヘッダーの開発に着手したという。
「モノづくりでは、サポート面でもさまざまな技術が必要になる。工作機械のような長く使われるものでは、耐久性を維持していく上で部品供給やメンテナンス体制が重要。当社では半世紀以上にも及ぶヘッダー製品群の細かな部品一つの図面まで全て残しており、30年、40年前の鋳型も保管している」(中島田社長)。
同社はシリアル番号さえ分かれば、必ず部品供給を行ってきた。同社の製品は中古相場でも他社に比べて少し高いというのも、この手厚いサポート体制ならではだろう。
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