ミスター・スポックからカーク船長になったAIは「脅威ではなく利用すべきもの」:Autodesk University 2016(1/2 ページ)
Autodesk(オートデスク)のユーザーイベント「Autodesk University 2016」の基調講演に、同社CEOのカール・バス氏とCTOのジェフ・コヴァルスキ氏が登壇。機械学習に代表される人工知能や、同社が注力している「ジェネレーティブデザイン」、VR、ロボットなどの最新技術が、設計/エンジニアリングにどのような影響を与えるかについて語った。
Autodesk(オートデスク)は、同社ユーザーイベント「Autodesk University 2016」(2016年11月15〜17日、米国ネバダ州ラスベガス)を開催した。初日の基調講演には、同社CEOのカール・バス(Carl Bass)氏とCTOのジェフ・コヴァルスキ(Jeff Kowalski)氏が登壇し、機械学習に代表される人工知能(AI)や、同社が注力している「ジェネレーティブデザイン」、VR(仮想現実)、ロボットなどの最新技術が、設計/エンジニアリングにどのような影響を与えるかについて語った。
基調講演の冒頭に登壇したのはCTOのコヴァルスキ氏だ。同氏は「人類がアイデアを具現化したいと思う衝動に対して設計ツールは大きな力を与えてくれた。しかし今では、設計ツールがアイデアを制約するようになっている」と指摘した上で、「4つの新たな技術が人類に無限の表現力を与えてくれる」と語る。
コヴァルスキ氏の言う4つの新技術とは、AIと機械学習、ジェネレーティブデザイン、VR、ロボットのことだ。同氏はまずAIについて、チェスやクイズ番組、そして囲碁で人間のチャンピオンを打ち負かしてきた事実を挙げ、「囲碁の事例を見れば、AIは既に一種の直感を発揮していることが分かる。そして機械学習との組み合わせによって、論理的な問題を解決する左脳的な能力だけでなく、右脳的な創造性も兼ね備えつつある」と説明する。
その分かりやすいたとえとして「昔はスタートレックのミスター・スポックだったが、現在はカーク船長により似ていると言っていい」(コヴァルスキ氏)と述べた。
2つ目に挙げたジェネレーティブデザインは、コンピュータが自己生成的にデザインを生み出す技術として知られている。オートデスクはCADツールベンダーの中でも、ジェネレーティブデザインに先駆けて取り組んできた。今回は、「自己生成的にデザインを生み出す」という意味でさらに踏み込んだ機能となる「Dreamcatcher」(関連記事:ジェネレーティブデザインは進化する、オートデスクが「Dreamcatcher」を発表)について説明した後、その他のジェネレーティブデザインの取り組みも説明した。
それは、一定の制約条件から、何千もの建物のフロアプランを生み出すというもので、オートデスクの建築設計ツール分野に展開可能な技術だ。2017年に市場投入予定のDreamcatcherの要素が含まれているものの異なる技術になっているという。
3つ目のVRについては「デジタル空間に潜り込む(Immersive)技術」(コヴァルスキ氏)と表現し、既に今現在利用可能だと強調した。建築設計ツールの「Revit」向けに「Autodesk LIVE」というインタラクティブビジュアライゼーションツールがあり、これとVRシステムを組み合わせれば、あたかも建築物の中にいるかのように設計内容を確認できる。
また製造業においても、VRを活用すれば、離れた地域にいる技術者でも同じ空間で設計情報を共有することが可能だ。コヴァルスキ氏は「VRでの情報共有にとどまらず、VR環境の中で設計そのものを行うことが究極のステップになる」と述べる。そのために、VR環境でモデル化とシミュレーションを行えるようにする新しいツールを開発中だという。
4つ目のロボット技術は「AIやジェネレーティブデザインと組み合わせることで、設計したアイデアを具現化するのに役立つ」(同氏)とした。同氏は2年前のAutodesk Universityで、ロボットがアルゴリズムを基にして3Dプリントで橋を自動で組み立てていくというコンセプトを「クレイジーなアイデア」として紹介している。だが今では、そのコンセプトが実際にオランダのアムステルダムで実施される段階になっているという。
コヴァルスキ氏は「これら4つの新たな技術を脅威と感じる人がいるかもしれない。しかし本当の脅威は、競合企業にこれらの技術を先に使われることだ。人間は、常に新たな技術を活用してきたし、それらの技術を活用できるように学び、新しい才能を育ててきた。新たな技術は確かに強力だが、そのことによっておびえるべきではない。機械学習でAIが学習するかもしれないが、人間も新たな技術を有効活用できるように学習すればいい。そうすれば、新たな技術は脅威ではなく強力な力として役立てることができるはずだ」と述べている。
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