トランプ政権誕生で製造業が考えるべきポイントは「米国生産」:モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)
2016年11月8日の米国大統領選挙の結果により、ドナルド・トランプ氏が次期米国大統領となることが決まった。過激な発言を繰り返してきたトランプ氏だが、製造業への影響には何があるだろうか。最大の焦点は「米国での生産」をどう考えるかに左右される。
2016年11月8日の米国大統領選挙の結果、ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が、ヒラリー・クリントン氏(Hillary Clinton)氏を破り、米国の次期大統領となることが決まった。トランプ氏は「メキシコとの国境に壁を作る」などの、過激な発言で注目され、いまだに反対デモが巻き起こるような状況である。
ただ、こうした過激な発言などをひとまず脇に置いて、トランプ氏が志向する方向性を維持しつつ政策運営を行った場合、日系製造業にどういう影響が起こるのか、という点について考えてみたい。
トランプを支持したのは白人の製造業従事者
トランプ氏を大統領へと後押しをした中心層だと見られているのが、白人の低所得者層である。最終的には低所得者や白人層も一部がヒラリー・クリントン氏に流れたため、支持率は当初想定されたほど一方的なものとはならなかったが、製造業で労働してきた現場の作業員などの層が最大の支持層であることは変わりない。
そういう意味ではトランプ氏の掲げる「米国第一主義」や「メキシコとの壁建設」などの過激発言なども全ては「かつては米国の中心だったが今は苦しんでいるこうした白人の労働者層」に対するものであるといえる。既にトランプ氏は公約の1つとして「製造業の雇用を復活させる」ということを掲げている。つまり、最大の焦点は「米国の雇用」に収れんされるというわけである。
仮に、選挙前の公約をそのまま実行していく路線に乗れば、当然TPPは破棄する方向に向かうだろう。さらにNAFTA(北米自由貿易協定)なども離脱し、メキシコをはじめ海外からの輸入に高関税をかける保護貿易の方向に舵を切ると想定される。
現実的には米国内の製造業の能力だけでは米国内の需要全てを賄うことはできずに高関税をかければ、最終的な製品価格が高騰し、米国民そのものが苦しむ状況になる。また、NAFTA離脱についてもそもそも米国とメキシコ間では、NAFTA成立以前にマキラドーラ協定(保税加工制度)を結びメキシコの安い労働力を生かして低価格の製品を米国市場に導入してきた経緯があり、こうした過去の背景を考えると、現実的にどこまで保護化を進められるかは見えない部分も多い。
ただ、保護化が実際に進んだ場合には日系製造業にとっては考えるべき点が出てくる。「米国で生産を行うのか、否か」という点である。
先述した通り、トランプ政権の最大のテーマが「米国の雇用」であるとすれば、輸入には厳しく、現地生産には甘くなるのが必然の流れである。そういう意味では、自動車メーカーなど米国市場が大きな価値を持つ企業にとっては、米国への輸出を伸ばすことが難しくなる。政策次第では米国での工場建設や買収などを考える必要が出てくるだろう。これは日系製造業にとっては、大きなリスクであるといえる。
ただ、ここで付け加えておきたいのが、新たな工場立地を求めている状況であれば、現在の状況はそれほど悪いものではないということである。なぜなら、工場投資先としての米国は、依然とは異なり、工場投資の選択肢としては十分に検討の余地がある状態になってきているからだ。
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