HILSとプラントモデル(その2):いまさら聞けないHILS入門(6)(2/3 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、実験データを利用する統計モデルによる「プラントモデル」について考えてみましょう。
エンジン本体の等価回転慣性質量を実験で求める
発電機システムのプラントモデルの重要な要素であるエンジンや発電機の回転部分の慣性質量は、直線運動の質量のように秤(はかり)で測定することができません。一般的には図面から計算して求めますが、エンジン内部のフリーホイールやクランクシャフト、コンロッド、ピストンなどの可動部分の図面を入手する必要があります。
自社でエンジンを開発・製造していないECUメーカーや、トランスミッションなどのパワートレインコンポーネントメーカーでエンジンプラントモデルを作成するに当たって、図面を入手できない場合は少なくありません。そこで、質量を測るように慣性質量を測れれば、正確なプラントモデル作成に大いに寄与することは間違いありません。秤ほど簡単ではありませんが、実験的な手法で慣性質量を測定できます。以下にその手法を紹介しましょう。
図3で、回転慣性質量が未知の回転機械についての回転慣性質量の測定用実験装置を考えます。モーターなどのトルク発生装置で回転力を与え、出力オフ時にはブレーキなどの摩擦力(負のトルク)発生装置で減速します。モーターは、オンオフ可能ですが、ブレーキは常時掛かったままです。既知の回転慣性質量はクラッチを介して断接切り替え可能とします。ブレーキ力は、一定か、少なくとも回転数に対応する摩擦力を発生させるものとします。
実験は、まずモーターをオンにして一定の回転数まで加速して回転させます。その後モーターをオフにすると、回転慣性質量によって惰性回転を続け、ブレーキ力によって徐々に減速停止します。ここで既知の回転慣性質量を付加する場合と、付加しない場合について惰性回転を行います。どちらの場合も、ブレーキ力が等しければ、停止するまでの時間は回転慣性質量の合計値によって決まります。
この現象を式で表すと、既知の回転慣性質量が無い場合は、
既知の回転慣性質量がある場合は、
ただし、
- Tbrake(Nm):ブレーキトルク
- Iknown(kg・m2):既知の回転慣性質量(青色表示部分)
- Iunknown(kg・m2):未知の回転慣性質量(茶色表示部分)
- ω_1(rad/s):既知の回転慣性質量を付加しない場合の回転角速度
- ω_2(rad/s):既知の回転慣性質量を付加した場合の回転角速度
とします。
ωを時間微分するとdω/dtが得られます。そして、式(1)と式(2)からTbrakeとIunknownを次のように求めることができます。
温度を一定にするなど2通りの惰性回転試験の摩擦力を一定にする配慮が必要ですが、この方法によって、テストベンチのエンジンはもちろん、実車装着のエンジンについても回転慣性質量の測定が可能となります。一例として、エンジンの回転慣性質量とブレーキトルクを仮定して、さらに実験用の付加回転慣性質量のありなしの条件で仮想実験を行いました。図4のように、仮定したエンジン回転慣性質量とエンジントルクで多少誤差が生じたものの、求める結果を得られることが分ります。
実車でこの実験を行う場合は、タイヤ装着部に円板型の回転慣性質量を付加します。この場合は、タイヤとアクスルシャフトを含むホイールやプロペラシャフトやトランスミッションとエンジンの慣性モーメント全体を測定することになります。また、エンジンやトランスミッションの見掛けの慣性質量が、変速機の変速比の2乗に比例するだけ大きくなることに注意が必要です。
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