物流へのIoT適用を考える:トヨタ生産方式で考えるIoT活用(6)(2/7 ページ)
日本型モノづくりの象徴ともいうべき「トヨタ生産方式」。本連載では多くの製造業が取り入れるトヨタ生産方式の利点を生かしつつ、IoTを活用してモノづくりを強化するポイントについて解説していきます。第6回は、グローバル化の進展によって重要度を増している物流でIoTを活用する考え方について説明します。
トヨタ生産方式における物流上の課題
トヨタ生産方式は、かんばんを用いた後補充生産によって在庫を極小化する手法をベースとしています。このため、なるべく完成車の生産拠点の近くに部品メーカーも集積することにより、ジャスト・イン・タイムを実現してきました。海外についても極力その姿勢は崩さないようにしていますが、次の課題があります。
1.物流インフラ含めた物流網が整備されていない→自社だけで物流手段の確立が難しい
生産拠点は各国の税制優遇措置もあり、未開拓の土地に工場を立地し作業者を集めることが一般的です。そうすると自社でトラックの手配をして物流を行うことが難しいため、完成車メーカーの輸送手段を利用したり、先行して事業を推進している外部の物流業者に委託(3PL:サード・パーティー・ロジスティクス)せざるを得ないと言う事態が多々発生します。従って、物流手段の選択肢が限られることにより物流コストの自社でのコントロールが難しくなります。
2.全ての部品調達が各国では不可能→在庫を保有することが前提
国内ではほとんどの部品を調達することができますが、国内品質と同等の物を海外の現地で全て調達することはできません。例えば、鉄を固くして耐久性と精度を確保する熱処理や切削などの加工は国内で行ってから輸出する話をよくお聞きします。そうなると国内から各国へ輸出することになり、輸送手段は船、鉄道、トラックを乗り継いでいくことになります。リードタイムが何週間、何カ月となるため、組立拠点の近くでは在庫を保有せざるを得なくなります。それが大きなリスクとなります。
3.かんばんによる生産方式が独特で現地への定着が困難→さらなる在庫保有に走る
かんばんによる後補充生産は、後工程から前工程の在庫を引き取ったことをきっかけとして前工程が製造に着手します。作業者にとって、前から物が流れてそれを加工、組付けし後工程へ流すのは分かりやすいですが、後工程からの引取りで前工程の部品を引取り生産するのは不自然な流れであり、理屈だけでは分かりにくいことです。
管理者でも、かんばんの具体的な作業の流れや後補充生産の真の意味を理解できていない人によく出会います。これを海外の人達に少ない有識者で教育することになるので、短期間で定着させることが難しくなります。
海外では人材の流動が激しいため、教えても教えても人が変わってしまうジレンマがあります。指導するスタッフも3〜5年で配置換えになるため、企業が政策的に指導できる人材をしっかり教育して計画的な派遣をしなければ実現ができません。よく海外では物流経路が長いからかんばんが定着しないという話を聞きます。しかしそれ以上に、かんばんそのものの理論が一般的に理解しにくいことや、具体的かつ継続的に指導できる体制を確保できないマネジメント側の問題の方が大きいととらえています。
そこをおざなりにした結果、在庫保有を前提とした計画生産に走り過剰在庫と欠品の連続に頭を悩ますことになっていきます。
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