カーデザイナーの仕事は「色や造形を考える」だけではない:クルマから見るデザインの真価(11)(3/5 ページ)
デザインには「誰のためにどんな価値を提供するのか。その導線としてどのような体験が必要か」といったコンセプトと、「そのコンセプトを具現化するにはどのような姿形が必要か」というスタイリング、2つの側面がある。カーデザインも、コンセプトを描き、提供する価値の“メートル原器”を作るところから始まる。
ステップ3 エクステリアとインテリアのデザインが決まるまで
デザイナーがやっていること
- 量産製品のための造形アイデアの創造/提案/承認
- アイデアを具現化させるための、設計や生産部門とのすり合わせ
パッケージングが決まればいよいよデザイナーらしく(?)、形や色についての創造作業がボリュームを占める。たくさんのアイデアスケッチやモックアップでのデザイン検討を重ね、経営トップからの承認を得るところまでの段階である。
クルマにおいて主にデザイナーがデザインする分野は、「エクステリア(クルマの外観および関連部品」「インテリア(内装全般)」「内外のカラーやファブリックや皮革など内装素材」が大きなところとなる。メーカーにより組織編成の仕方に多少の違いはあるが、この3つの分野ごとに担当デザイナーがいると理解していただいて良いだろう。
粘土だけどリアルなモックアップ
今回はエクステリア、インテリアの各デザインについて、この段階でどのようなことをやっているのか、のぞいてみよう。
「カーデザイン」という言葉からは、エクステリアデザインをイメージする方が多いと思う。エクステリアデザイン開発では、手描きのスケッチから始まり、4分の1や5分の1スケールのモックアップでの検討、実寸大のモックアップによるデザイン検討を得て採用案が選ばれていくのが大まかな流れだ。
クルマのデザイン開発に多少興味をお持ちの方であれば、クレイモデルという言葉を聞いたことがあるかもしれない。これはインダストリアルクレイと呼ばれる粘土を用いたモックアップである。長年にわたりクレイモデルを活用したデザイン開発手法が続いてきているのは、カーデザインの大きな特徴の1つである。
エクステリアのクレイモデルは、一番内側の強度のある金属フレームに発泡材を載せ、その上にクレイを重ねる構造だ。デザインの初期はデザインの修正も多いのでクレイの盛りしろは厚く、開発が進むと盛りしろも薄くなる。
このクレイモデル、デザイナーも手を動かして立体で形を考えるというシーンもあるが、クレイモデラーと呼ばれる専門職の手により仕上げられるのが一般的だ。「粘土のモックアップで、最終的な姿を想像しながらデザインを判断できるの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれない。それができるのである。
クレイの地肌は茶色のいかにも粘土というものであるが、この上に塗装した伸縮性のあるフィルムを貼り込み、樹脂で作った灯火器やフロントグリル、アクリルを成型したウィンドウなどを装着すると、パッと見リアルなクルマが出来上がる。
経営陣を前にしたデザイン検討会などへは、こうしてリアルに仕上げられたモデルが使われる。そして、このクレイモデルを距離感や光の状態などを一定の条件下で評価するための専用の場所を、各自動車メーカーのデザイン部門は屋内外で持っている。
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