空気清浄機が蚊を取る? シャープが狙う新市場:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(6)(2/7 ページ)
シャープが2016年4月に発売した「蚊取空清」は、蚊取り機能を持つ「世界初」の空気清浄機である。なぜ空気清浄機に蚊取り機能を持たせたのか、開発にはどのような苦労があったのか。小寺信良氏が探る。
空気清浄機の“そもそも”
―― 空気清浄機って、相当昔からありますよね。これはシャープが開発したものなんでしょうか。
冨田昌志氏(以下、冨田) いいえ、当社が初めて開発したものではないですね。コンシューマ製品としては既に1980年代からあって、当社が参入したのは1987年になります。そこから1990年代にかけてずっと商品はあったんですけど、シェアも低くて鳴かず飛ばずで、社内でもやめたらどうだというような、お荷物的な商品だったんです。それが2000年に「プラズマクラスター」を開発しまして、消臭効果をプラスした。むしろそこからですね、われわれ的な空気清浄機の歴史は。
―― 空気清浄機の市場規模に対してシャープの現在のシェアというのは、どうなってるんでしょう。
冨田 プラズマクラスターを搭載したラインアップは弊社製品として15品目あり、異業種企業様に技術を採用いただいているのが26社。グローバルで見ますと、100カ国以上に何らかの形でプラズマクラスター商品を展開しています。2000年に初めて空気清浄機に搭載してから、2015年7月までの15年間かかって世界累計販売台数6000万台に到達しています。また、現在の空気清浄機市場では、われわれがトップシェアとなっています。
―― 空気清浄機って、基本的には空気を吸い込んできれいにして出すというものですよね。実は僕も評判を聞いてシャープの空気清浄機を使っていながら実はよく分かってないんですが、プラズマクラスターがあると何がいいんでしょうか。
冨田 通常の空気清浄機はフィルターで空気をきれいにしますので、空気中に漂ってるものしか吸えません。一方、プラズマクラスターはイオンを放出しますので、そのイオンで付着したカビですとか付着した匂い、もしくは付着した菌を除菌したり、消臭したりすることができます。そこが普通の空気清浄機と違うところですね。
よく生活臭ってあるじゃないですか。部屋の匂い。ご家族は気にならないんですけど、来客された方がちょっと臭うなと。あれが染み付いた匂いなんですよ。壁とか天井、カーペットに染み付いた匂いは、なかなか取れないんです。そこにプラズマクラスターが飛んでいくと、匂いを分解しますので、生活臭も取れます。
ですから当社の空気清浄機は、つけっぱなしにして置いて頂いた方がいいんです。よく外出時や人のいない部屋では電源をお切りになる方が多いんですが。
―― あっ、今日出掛ける時に切って来ちゃいました(笑)。あれ、つけといていいんですね。実はシャープの製品に買い換える前は別のメーカーのを使ってたんですが、もう吸気口の詰まりとかフィルターの汚れがすさまじいことになるんですよ。一方、シャープのは、内部のフィルターがほとんど汚れません。実は大して吸ってないんじゃないかという疑問を持ってるんですが。
冨田 シャープのは裏面全面を使って吸い込みしてますよね。そこにプレフィルターを付けてるんですよ。それに大きな埃は全部たまります。それはお掃除の時にでも、掃除機で吸っていただいていると思うんです。だから中のフィルターまでは行ってないんです。
―― なるほど、吸い込み面が広いから、狭いところにホコリが殺到しないというのは1つのメリットですね。中のフィルターというのは、何か特徴があるんでしょうか。
冨田 フィルター自体は、実はそんなに進化はないんですね。匂いを取るフィルターはいろんな成分を取るために多少改良はありますけど、チリ埃の場合はHEPAフィルターというフィルターを各社さん採用されてると思うんです。そこは性能的にはほとんど差がないんです。
1つ違うのは、当社の空気清浄機は背面全部で吸い込んだあと、斜め後ろ20度に排気します。すると壁を伝って、循環気流ができるんです。空気清浄機って、基本的には風量で性能が決められます。吸い込む力で近くは吸えるんですね。ところが離れたところからは、なかなか吸えないんです。それを循環気流を作ることで、遠くのチリ埃も集めてこれるんですね。
―― 後ろ向きに排気するのはそういう理由だったんですか。僕的なポイントは、後ろに噴き出すと冬場に寒くならないんですよ。前方に噴き出すヤツは直接風が当たってくるので寒いんですよね。
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