安静時脳活動の時空間パターンが脳血流へ反映される過程を発見:医療技術ニュース
九州大学は、安静時における脳活動の詳細な時空間構造と、それが脳血流に変換される様子を観察することに成功した。大脳皮質のほぼ全域で、神経活動と脳血流を同時に観察できるシステムを開発して観察した。
九州大学は2016年5月17日、安静時における脳活動の詳細な時空間構造と、それが脳血流に変換される様子を観察することに成功したと発表した。同大学大学院医学研究院・東京大学大学院医学系研究科の大木研一教授らの研究グループによるもので、成果は同月16日に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」でオンライン発表された。
ヒトの脳は、安静時や睡眠時でも活発な活動をしている。この安静時脳活動から抽出される脳部位の結合は、機能的結合と呼ばれ、脳全体のネットワークを調べる重要なツールになっている。しかし、既存の実験技術では、脳全体の神経活動を同時に計測することが難しく、安静時脳活動の詳細や、それがどのように機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で観察できる脳血流信号に変換されているかは不明だった。
研究グループはまず、大脳皮質のほぼ全域で、神経活動と脳血流を同時に観察できるシステムを開発した。同システムを用いて、軽い麻酔下で安静にしているマウスを長時間観察したところ、大脳皮質全体に波のように伝わる神経活動が存在することを発見した。こうした活動の波は、以前から存在が知られていたが、今回新たに、大脳皮質全体を伝わる波の伝わり方が、機能的結合に似た特徴的な空間パターンを生み出すことを明らかにした。
また、神経活動と同時に、記録した脳血流信号との関係を分析。その結果、神経活動で見えていた特徴的な空間パターンは、脳血流信号の空間パターンへと正確に変換されていた。脳血流の空間パターンは、神経活動の空間パターンから2〜5秒程度遅れて立ち上がっており、この遅れは神経活動が脳血流に変換されるために必要な時間を表していると考えられる。さらに、こうした神経活動の特徴的な空間パターンが、脳血流信号の時間相関から計算した機能的結合の空間パターンに寄与していることも示した。
これらの結果は、安静時脳活動が大脳皮質全体を伝播する大規模な神経活動から生じていること、さらにその特徴的な活動パターンが、脳血流信号の変化として観察できることを明らかにしたものといえる。同成果は、安静時脳活動を利用した脳のネットワーク構造の解明や脳疾患診断への応用につながることが期待される。
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