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AUTOSAR導入でマネジメント層が果たすべき役割AUTOSAR〜はじめの一歩、そしてその未来(8)(3/3 ページ)

「量産開発を通じてのAUTOSAR導入」の2つ目の側面である「AUTOSAR導入により、基本的な型や支援体制をどのように変えていくかの見極めと必要な活動の実施」では、現場担当者の上司であるマネジメント層の果たす役割は極めて大きい。マネジメント層が壁になるのか、支えるのかによって状況は大きく変わるからだ。

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組織体としての判断〜担当者に委ねることも選択肢の1つ

 もちろん、マネジメント層には、自ら個別トピックについて判断する以外にも、適切な判断能力と情報を持つ担当者の見解を採用する、という選択肢もある。たとえ上の立場にあるからといって、部下のそれぞれが持つ専門性を全て兼ね備えるわけではない。上の立場の方がプレイングマネジャーであったとしても限界はあるだろう。判断結果に至る議論の構造を適切なものにすることは、上の立場の方々こそが得意な分野だろうし、本来の役割の1つだろう。少なくとも、このような背景の中で自らの判断を保留し、(たとえ部下であっても)専門知識を持つ人に判断をゆだねるのは決して恥ではない。むしろ、これだけ規模や複雑性が大きくなっている状況下では、ISO 26262での安全文化の観点からも自然なことである。

 例えば、AUTOSAR BSW(Basic Software)を「用意する」という過程においては、内製と外部調達の2つの選択肢がある(もちろん、外部調達が現在の主流であるが、ここではどちらが良いということは述べない)。「内製」で実現できるという自信の度合いの時間的推移に着目すると、面白い現象が見えてくる(図4)。

図4
図4 「自力でやれる」という自信の度合いの時間的推移と、立場間のギャップ(筆者による仮説、クリックで拡大)

 内製での成立性を検討する担当者は、最初は自信度が低く、ある程度見えてくると自信度が急に高まる。そして、より理解が深まると、それまでに見えてこなかったような課題や物事の本質が見えてきて自信度はまたいったん下がる、という経緯をたどるのではないだろうか。もちろん、理解の度合いは順調に伸びていっているのだが、自信の度合いは多少なりとも高下をするだろう。

 本質が見えてきて急に不安を持つようになった時期には、その不安の根源にあるリスクを上司に説明するために学び整理しようとするのは当然であるのだが、その時期には、学べば学ぶほど不安が強まるということを筆者自身も幾度も経験している。しかし、上の立場の方々は担当者から説明を受け続けることで、基本的には同じ経緯を、時間ズレを伴いつつたどるかもしれない。仮にそうだとすると、面白いことに、担当者が説明をするために学び続け理解が深まり、上の立場の方も説明を受け理解が深まるにつれて、自信の度合い(=できるという見通し)における両者のギャップが広がる、つまり、担当者が困難さを説明しよう躍起になると、説明を受けた側は逆に楽観的になってしまうという期間が現れる可能性を示唆している(図4の赤矢印:「ギャップの拡大期」)。

 もちろん、自信の度合いだけで内製するか否かが決まるわけではないし、そもそもこの仮説は筆者が経験から勝手に立てたものであり検証されたものではない。しかし、2つの立場で意見が極端に分かれてしまい、話をすればするほど乖離していくような場合には、このような状況に陥っているのではないかと疑い、判断をあえて保留しようと考える必要がありそうだ。そのことに気づくべきなのは、やはり上の立場の方々だろう。そのような時には、判断をあえて保留し、担当者の説明を徹底的に聞くことで、より適切な判断に到達できる可能性がある。

 そして、そこで結論があらかじめ決まっているのでは意味がない。検討の際の前提や制約もその種の結論の一部となりうる。未知の新しいものに取り組むとき、最初に仮に「これで行こう」と選択肢を絞ることはどうしても必要になるだろう。あくまで暫定的な決定であることに留意し、必要に応じて方向修正の余地を残しておかなければならない。

 ごく当たり前のことではあるが、ぜひ、上の立場にある方々は、「上の立場(あるいは、マネジメント層)にしかできないこと」「上の立場が得意なこと」を優先的に行っていただきたい。もちろん、現時点で全くできていないと言っているわけではない。しかし、この志向をより強くすることによって、少なくともこれまで国内で目にしたAUTOSAR導入の現場では状況を改善できる余地が大きいとも感じている。そもそも、担当者にできることは思い切って任せる※4)、そして、そのための十分な支援を上の立場から提供するという基本的な分業体制を徹底していかなければ、増大する開発規模と複雑さに対処し続けていくこと(=AUTOSAR登場の背景)も、後進の育成も困難である。

 AUTOSARに限らず、安全/機能安全やセキュリティ対応などでも、このことは共通であろう。



 本連載の最終回となる次回は、筆者が考える、AUTOSAR導入における「取り組むべき課題」について述べたいと思う。

注釈

※4)任せられるようにするためには、「できる」という判定条件をできるだけ明文化することも欠かせないだろう。当然ながら、理由を示して「できる/任せられる」「できない/任せられない」の判定を下すのと、示さずに判定するのでは大きな違いがある。理由付けもマネジメント層の重要な仕事だが、未知/未経験のAUTOSARというものに関してそれを行うことは極めて難しいはずである。育成カリキュラムや能力判定基準などは、できるだけ経験者にアドバイスを求めるべきだろう。


お知らせ

 筆者が現在所属するイータスでは、AUTOSARをはじめ車載ソフトウェア開発に関する「よろず相談会」を随時開催しています(要事前予約、初回無料)。詳しくは、申し込み用Webサイトまで。


【筆者紹介】
櫻井 剛(さくらい・つよし) イータス株式会社 RTAソリューション シニア・コンサルタント
2014年よりイータス株式会社。ECU開発(1998年〜)やAUTOSAR導入支援(2006年〜)における経験を生かしし、2015年現在、AUTOSARに関する全般的な支援業務、および、機能安全を含むシステム安全に関する研究に従事。修士(工学)およびシステム安全修士(専門職)。
イータス株式会社
http://www.etas.com/ja/


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