トヨタから1年遅れ、それでもホンダは燃料電池車を普通のセダンにしたかった:燃料電池車(2/3 ページ)
ホンダは2016年3月10日、セダンタイプの新型燃料電池車「CLARITY FUEL CELL(クラリティ フューエルセル)」を発売した。水素タンクの充填時間は3分程度、満充填からの走行距離は750Kmとし、パッケージングも含めてガソリンエンジン車とそん色ない使い勝手を目指した。
燃料電池スタックを置く向きを変えるには?
FCXクラリティの燃料電池スタックは運転席と助手席の間に置いていた。高さもあり、そのままボンネットに置くことは難しかった。クラリティ フューエルセルは、燃料電池スタック自体を小さくし、置く向きを変えることで駆動用モーターの上部に燃料電池スタックを配置できるようにした。
FCXクラリティの縦置きの燃料電池スタックは、上から下に向かって空気と水素を流す並行流だった。発電時に発生した水が発電部表面にとどまると空気や水素が流れにくくなるため、縦置きとすることで水を排出しやすくしていた。しかし、セル内の水のせいで発電した電圧の振れ幅が大きいのが課題だった。
クラリティ フューエルセルは燃料電池スタックの左上から右下に水素を、右上から左下に向かって空気を流す対向流とした。これにより、湿度がセル内に行きわたりやすくなり、発電時に発生する水の量も減少。電圧も安定した。水の排出が解決したため、空気や水の流路を縮小することが可能になり、セルの厚さを従来比20%低減することができた。水の排出を考慮しないため、燃料電池スタックを横置きすることも可能になった。
燃料電池セルの膜電極接合体の生産性が10倍に
燃料電池車の中で、生産に最も時間を要する部品の1つが燃料電池スタックだ。クラリティ フューエルセルは、生産性の向上も重視して開発された。
核となるのが膜電極接合体(MEA)だ。電解質膜に水素極と空気極、拡散層を重ねた部品だ。膜電極接合体は、セル内の流路に空気や水素を効率よく引き込むため、発電部の外周が特殊な形状となっている。FCXクラリティで使用した膜電極接合体は、発電部と同じ素材で外周の特殊な形状を加工していたため、電極層の印刷や、電解質膜と拡散層の裁断で生産性が低いのが課題だった。
クラリティ フューエルセルの膜電極接合体は、発電部のみを長方形で切り出し、外周の枠を樹脂化した。これにより電極の塗工が容易になり生産性が向上した。「生産スピードとしては従来の10倍は速くなった」(ホンダの説明員)。さらに、材料の使用量が削減でき、高コストな素材の使用量を40%低減した。
また、セルに空気と水素を引き込む流路の構造を見直したことで拡散性が高まり、1セル当たりの発電性能が従来比1.5倍に向上、容積当たりの出力密度は60%改善した。これにより、セル数自体も30%減少することができた。
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