細胞の代謝とがん化をつかさどる、GTPセンサーを発見:医療技術ニュース
高エネルギー加速器研究機構は、細胞内のエネルギー物質GTPの濃度を検知し、細胞の働きを制御する「GTPセンサー」を世界で初めて発見したと発表。このセンサーが、がんの増殖にも関与していることを確認した。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2016年1月8日、細胞内のエネルギー物質GTPの濃度を検知し、細胞の働きを制御する「GTPセンサー」を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、KEK物質構造学研究所、シンシナティー大学医学部、産業技術総合研究所創薬分子プロファイリング研究センターの合同研究チームによるもので、成果は同年1月7日、米科学誌「Molecular Cell」にFeatured Article(注目記事)として掲載された。
細胞で、主にタンパク質の合成やシグナル伝達の原動力となるエネルギー物質として働くGTP。その濃度を正しく保つことは、細胞機能の維持に不可欠だ。しかし、細胞内のGTP濃度を検知し、細胞機能を制御する「GTPセンサー」はこれまで発見されておらず、検知や細胞応答の仕組みも分かっていなかった。
同研究チームは、GTPセンサーの正体を突き止めるべく、GTPに結合するタンパク質を細胞内から広く探索した。その結果、脂質2次メッセンジャーの1つであるPI(5)Pを介して細胞のシグナル伝達を制御する脂質キナーゼの1種、PI5P4Kβタンパク質がGTPに強く結合することを見いだした。そして、KEKのフォトンファクトリーを用いて、PI5P4KβとGTPとの複合体の立体構造を解析。その結果、PI5P4KβがGTPを用いる非常に珍しいキナーゼであり、生理学的なGTP濃度変化に伴って、PI(5)Pのリン酸化活性を大きく変化させることが示された。
さらに、決定した立体構造に基づいて、GTPセンサー機能を持たないPI5P4Kβを人工的に作成し、細胞内に戻したところ、その細胞はGTP濃度の変化に対し、適切に応答できなくなることを確認した。これらのことから、PI5P4Kβが細胞内のGTP濃度を検知し、脂質シグナルを介して細胞応答を制御するGTPセンサーであることが明らかとなった。
また、同研究チームは、GTPセンサー機能を持つ本来のPI5P4Kβを発現するがん細胞が、増殖し腫瘍を形成するのに対して、GTPセンサー機能を持たないPI5P4Kβを発現するがん細胞は増殖せず、腫瘍を形成しないことも明らかにした。つまり、本来GTPセンサーとして細胞内エネルギーの制御を担うべきPI5P4Kβが、がんでは、病気の悪化に関与しているということになる。
この研究成果は、がんおよび代謝疾患において細胞のエネルギー制御が破綻する仕組みを理解する助けになるという。また、これを契機に、これまでほとんど研究されなかったGTPエネルギー研究分野が発展し、それらの病気に対する治療や創薬へと展開することが期待されるとしている。
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