NDAにおける上手な「秘密情報の定義」とは?:いまさら聞けないNDAの結び方(5)(1/4 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回は前回に続き、中堅・中小企業がNDAを結ぶに当たり留意すべき点を説明します。
本連載の登場人物
江戸 健太郎(えど けんたろう)
大江戸モーター 代表取締役社長。小さいけれど技術力に優れたモーター企業の創業者。通称、えどけん。
矢面 辰夫(やおもて たつお)
業界最大手の自動車OEMメーカーであるCFGモーターズの新規事業開発部門に所属。やり手。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
前回までのあらすじ
さて、オープンイノベーションなどが広がる中、中小製造業やモノづくりベンチャーでも必要性が増している秘密保持契約(NDA)の結び方を解説する本連載ですが、まず前回までの内容をおさらいしておきましょう。
あらすじ概略
電気自動車用の小型モーターの開発に成功した大江戸モーターは、大手自動車メーカーのCFGモーターズ(担当者は矢面氏)から「当社の次世代電気自動車用モーターで採用を検討したいので一度打ち合わせをしませんか」とのオファーを受けました。大江戸モーターにとって、自動車業界大手のCFGモーターズとのコラボレーション(協業)は大きなビジネスチャンスであり、社長の江戸氏は上記オファーを受けることとしました。そうしたところ、矢面氏から第一回目の打ち合わせまでにNDAを結びたいということで、NDAの契約書のひな型が送付されてきました。
江戸氏は、受け取った契約書を頑張って読んでみましたが、普段使うような言葉とは違い、何が問題で、何に気を付ければよいのかさっぱり理解できませんでした。では、江戸氏はどうすべきでしょうか。
さて前回は、江戸氏が何をすべきかということについて、以下の2点を検討することをお伝えしました。
- NDAを締結する目的の検討(「大江戸モーターの秘密情報をCFGモーターズに自由に使わせない」ようにするためにNDAを締結する目的の広狭の調整)
- 秘密情報を自社だけが開示するのか、双方共に開示するのかの確認
今回はこれらの議論を少し進めて「秘密情報の定義」について検討したいと思います。なお、前回も記載した通り、本稿では、NDAの一般的・共通的な条項についての解説は市販されている書籍に譲り「中堅・中小企業が大企業と協業(コラボレーション)を検討するという場面」において「NDAを結ぶためにどのような点に気を付けるべきか」の点にしぼって解説します。
秘密情報の定義の検討
大江戸モーターの江戸氏が、CFGモーターズから受け取ったNDAのひな型の第2条(秘密情報)には「秘密情報の定義」が以下の通り記載されていました。
「『秘密情報』とは、本目的のために甲又は乙が相手方に開示する技術上、営業上の情報であって、書面にて情報が開示される場合は、その書面上に秘密である旨の表示がされた情報をいい、口頭にて情報が開示される場合は、開示の際に開示される情報が秘密である旨が示され、開示以降15日以内にその内容を書面化して情報の受領者に当該書面が提供された情報をいう。」
なお、この定義規定で、甲は「大江戸モーター」を、乙は「CFGモーターズ」を指しています。また「本目的」とは前回検討したNDAを締結する目的をいいます。この記載文を読んで、江戸氏は以下のように判断しました。
「『秘密情報』とは……書面にて情報が開示される場合は、その書面上に秘密である旨の表示がされた情報をいい……」と記載されているから、打ち合わせの席でCFGモーターズに渡す書類に「秘密(CONFIDENTIAL)」表示を入れれば、「秘密情報」として、NDAの保護を受けられるはずだ。うん。秘密情報はこの定義規定で十分だ。
果たしてそうでしょうか? 少し考えてみてみましょう。
秘密情報の定義を考える際に検討すべき点は、打ち合わせの席などで、大江戸モーターが、CFGモーターズに対し「どのような形式や方法で情報を提供するか」ということです。これらを具体的に想定し、提供される情報が過不足なく「秘密情報」に含まれるように定義の内容を検討(修正)することが必要になります。
もちろん、CFGモーターズに提供する情報が「書面のみ」であるならば、江戸氏の考え通りでよいと考えます。しかし、次ページのような2つの例の場合はどうなるでしょうか。一緒に考えてみましょう。
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