日本の自動運転車開発の課題は「自動車業界とIT業界の連携不足」:富士通テン会長 重松崇氏 自動運転技術講演全再録(3/5 ページ)
「第3回 自動車機能安全カンファレンス」の基調講演に富士通テン会長の重松崇氏が登壇。重松氏は、トヨタ自動車でカーエレクトロニクスやIT担当の常務役員を務めた後、富士通テンの社長に就任したことで知られる。同氏はその経験を基に「自動運転技術の開発を加速する上で、日本は自動車とITの連携が足りない」と課題を指摘した。
センシングの信頼性
重松氏は、Volvo Cars(ボルボ)が発表した自動運転プロジェクト「Drive Me」において、センシングの重要性が示されている部分を紹介。Drive Meではドライバーは連続してシステムの自動運転を監視する必要がなく、運転以外のタスクが認められている。ただし、ドライバーは10秒以内に運転に復帰できる状態でいるのが条件だ。運転に復帰できない場合、車両は完全自動運転で安全な場所に退避する。「交通量の多い高速道路で短時間でも完全な自動運転をやるには、信頼性の高いセンシングが求められる」(同氏)。
センシングの課題は未検知と誤検知をゼロに近づけること、部分的なセンサーの故障・性能限界でシステム全体がダウンしないことだ。そのために要求されるものの一つが冗長設計である。ボルボの取り組みでは、前方60mをミリ波レーダ/ステレオカメラ/赤外線レーザースキャナーで3重に監視する。これらのセンサーが全て障害物に反応すると信頼度の高い検出結果だと判断する仕組み。検知原理の異なるセンサーを併用することで冗長性も確保しているのだ。
センサーはそれぞれに得意な検知特性がある。中でも、レーザースキャナーは面として距離情報をセンシングしており、比較的低速だが多様な障害物が多い市街地や路肩退避等の自動運転システムに貢献する。重松氏は「レーザースキャナーは現状では高価だが、ここ数年で大幅なコスト低減が行われ市場投入も近い」といわれている。また、「高精度地図とセンシングによる路側物の位置情報から自車位置推定を高精度化する技術でも、レーザースキャナーは重要な役割を果たす」(同氏)。
複数のセンサーを組み合わせるセンサーフュージョンも基本の手法が変わりつつある。先述した幾つかのセンサーを個別に使って障害物を検知し、それが同一ものであるか否かを検証しながらセンシング精度を高めるという方式はこれまでにもあった。この方式では異なる原理のセンサーや適用するセンサー数の増加等に従いフュージョン処理が複雑になる。そこで、汎用センサーモデルを導入し、センサーが情報処理すべき空間を一定の単位(セル)に分けて、1つのセルにモノが存在する確率や対象物の速度を割り出すというやり方も出てきており、より空間全体への理解を深められる可能性がある。GPSによる位置情報や路車間通信情報もセンサーフュージョンに組み込めそうだ。
ただしセンサー事業自体は「ビジネスとしては難しい構造になりつつある」(同氏)という。センサーフュージョンの演算機能が重要な役割を担う一方で、検知に使うセンサーそのものは安価なハ−ド(カメラ等)を多数使用し、情報処理の高度化で性能を確保する開発も進んでいる。また、ニューラルネットの学習で物体認識を行う手法やセンシングのみならず、危険判断まで統合処理化するユニットを提案している企業もある。「情報処理技術の革新がハードウェアを追い越していく印象だ」(同氏)。
重松氏は、センシング技術だけでなくクラウド連携の重要性も指摘する。クラウド連携には2種類あり、1つは車載機のバックヤードとして、ダイナミックマップの扱いや位置の推定経路探索を行うことを目的とするもので、リアルタイムに近い処理(エッジ・コンピューティング)の対応が求められる。もう1つは、高精度地図や行程管理など、分単位で処理するサービス用途だ。
ダイナミックマップでは、センサーから得た情報や交通状況、歩行者の行き来といったセンターに集めた生の情報と固定的な高精度地図情報をクラウド連携させる。それぞれの車両は周辺監視の結果を基にローカルで3次元地図を作成して車両の制御に反映させることができる。
一方、高精度地図の課題となるのは、地図の鮮度をどう維持していくかだ。測量以外の更新としては、各車両単位となるローカルとグローバルの地図の差分をセンターで収集して処理する方法が開発されている。ローカルの地図データを使えるので、クルマが走った分だけ高精度地図データを充実させることが可能になる。
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