異例の大売れ工具「ネジザウルス」、社員30人の中小企業がヒットを連発する理由:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(5)(3/5 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は年間1万丁売れれば大ヒットといわれる工具業界で、累計250万丁を売り上げた大ヒット商品「ネジザウルス」を開発した工具メーカーのエンジニアの取り組みを紹介する。
潜在的なニーズを掘り起こす
プロモーションによってユーザーとの接点が増えれば、マーケティングも変わってくる。
例えば、ネジザウルスGTを開発する際には、過去に販売したネジザウルスの読者から寄せられた1000通の愛用者カードから潜在的なニーズを探ったそうだ。しかしその際、リクエストが多い機能を製品化すれば再び成功するとは限らない。「ユーザーが気づいていない潜在的なニーズを見極めるのが、マーケティングのポイントです」と高崎社長は言う。
その結果、ネジザウルスGTは先行シリーズでは不可能だったトラスネジを外したいというリクエストに応じた。トラスネジへの要望は、1000通の中のたった7通だったが、そこに潜在的ニーズがあったわけだ。ネジザウルスGTは、顕在化されていないニーズに応えてユーザーに驚きを与えた。その驚きが大きければ大きいほど、ユーザーの満足度も大きくなる。
そしてユーザーを満足させるためには、機能や性能だけではなく、デザインも重要な要素となる。
エンジニアのデザイン戦略とは
同社のデザインに対する意識は、販路を変えて以来、大きく変わった。プロ用工具を販売していた時は、機能が最優先でよかった。しかし、ホームセンターを販路にする以上、店頭に並ぶ商品の中で、いかにユーザーの目に止まるかが重要となる。そこでカラー、グリップ、パッケージデザイン、ネーミング……これら全てのデザインを見直したそうだ。
ネジザウルスGTのグリップは、社員が自ら立候補し、本業の傍ら3次元CADで設計をしたという。このグリップが、プロフェッショナルな外観とメカニカルなデザイン性を評価され、グッドデザイン賞や工業デザイン界のオスカーといわれるドイツのiFデザイン賞も受賞した。
その社員はその後、プロの工業デザイナーから指導を得て、本格的にデザインを勉強した。今では、3Dプリンタを使い社内で細部にこだわったモックアップの製作も行っているという。
MPDP理論を用いて開発した「鉄腕ハサミGT」。3Dプリンタを導入してから、試作品のクオリティがアップ。要所でプロの工業デザイナーのチェックを受け、最終の金型を製作している。鉄腕ハサミGTは「Good Design Award 2015」を受賞した(クリックで拡大)
プロモーション、マーケティング、デザイン。これは決して大手企業だけのものではなく、現在では中小企業でも使えるツールや環境が整っている。積極的に活用しない手はない。
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