なぜ日本ではバーチャルなモノづくりが受け入れられないのか?:日本機械学会 設計工学・システム部門の講習会より(2/4 ページ)
欧州ではモノづくりの現場でCAEを活用したバーチャルエンジニアリングが当たり前になりつつある。自動車の認証試験に「バーチャルテスト」を取り入れる動きも進んでいる。一方、日本ではバーチャルエンジニアリングの価値がなかなか理解されていないようだ。
内田氏は、ほぼバーチャルテストでESPシステムに関する認証を行った例を紹介した(図2)。
120回ものさまざまなバリエーションのテストがあったが、そのうちバーチャルでのテストが117回で、実物でのテストがたった3回だったという。テストでは走る道路と、動き方の条件が全て規格で決められており、そこで求められる条件を満たせばよいことになる。さまざまな検証変数で4500回ものシミュレーションを行っているという。派生やボディの形状、仕向け地ごとの違い、さらに自動運転も入ってくると、実車で全て実施しようとすれば数億キロメートルレベルの走行距離になる。こうなればバーチャルでのテストは当たり前の話になると内田氏はいう。プジョーシトロエンも2012年に「リアルなテストでは2カ月かかるものが、バーチャルテストであれば2週間で終わる。さらに、ある程度自動化できるため2日で可能だ」と語っているという。
攻めの投資への意識がない
EUではバーチャルでのモノづくりが加速度的に進んでいるが、日本ではこのような動きはほとんどみられない。IT投資に関しても、守りの要素に集中しているというデータもある(図3)。
グラフによるとIT投資は1996年ごろまでは日本もアメリカもあまり差がない。だがその後は大きく差が出てきている。その差は「攻めの投資」に対する差だという。
具体的には図4のようになっている。
投資目的として、アメリカより日本の方が割合が高いのが、業務コストの削減、業務プロセスの効率化だ。一方、特に日本が低いのは、顧客満足度の向上、利益の増加、競争優位の増加、売り上げ増加、新規顧客獲得、新規ビジネス・製品の開発になる。この辺りに意識の違いがはっきりと見て取れ、「攻めの投資に対してことごとく日本は消極的ということになる」(内田氏)。
だが「今の(3Dデータを取り巻く)環境は、構想設計の段階で全て決定しようと思えばできるところまで来ている」と内田氏はいう。日本以外のVE/VR活用の動きは「効率化のためでも開発サイクル短縮のためでもなく、いかに魅力を出す商品を出すかへの注力が始まったと解釈できる」と述べた。
「従来は2次元図面を見ながら3次元のものを作っており、大変だがそこに日本ならではの品質を作り込む余地があった。だが現在は3次元データにあらゆる情報が入り、それがあれば直接マシンで作ることができる。そのためどこでも同じものができるという世界になった」と内田氏はいう。「にもかかわらず、いまだに2次元図面でないと作れないというメーカーもいる。ナンセンスだがそれがまかり通っている(のが現実)」と述べた。
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