技術とともに、より良い設計環境を次世代へ:Autodesk University Japan 2015(1/3 ページ)
オートデスク主催の「Autodesk University Japan 2015」では、ユーザー企業による講演が多数行われた。本稿では、新潟原動機 福岡和彦氏の講演「次世代のエンジニアへ残すべき3D活用環境構築への取り組み」について紹介する。
3D CAD、3Dデータ活用事例
オートデスクは2015年10月9日、東京都内でユーザーカンファレンス「Autodesk University Japan 2015」を開催。基調講演・特別講演、展示ブースの他、分科会として多数のユーザー企業が登壇し、最新の活用事例や技術情報に関する講演を行った。
本稿では、「製造」トラックに登壇した新潟原動機 技術センター プラントエンジニアリンググループ 製作・施工設計チーム シニアアシスタントマネージャー 福岡和彦氏の講演「次世代のエンジニアへ残すべき3D活用環境構築への取り組み」について紹介する。
次世代の若手エンジニアたちへ何を残す?
IHIグループに属する新潟原動機は、船用/陸用/車両用ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスタービン、タグボート用Z型推進装置などをメインに、各種エンジンの開発・製造などを手掛けている。その中で、福岡氏の部署では、自社製エンジンから、発電機、コージェネレーションシステムなどに至るまでのプラント設計全般を担当する。
新潟原動機の主力製品について。実際の設計モデルを「Autodesk 3ds Max」と「Autodesk Showcase」に変換したものを画像として利用しているという(出典:新潟原動機 福岡氏スライド資料) ※画像クリックで拡大表示
実は、福岡氏は2年前に開催された「Autodesk University Japan 2013」に登壇し、「3Dデータを社内全体で使い尽くす 3D文化の定着化を目指す」というタイトルで講演。同社では、設計以外の業務でも3Dデータを積極的に活用していこうという文化が根付いているという。
今回の講演の中で福岡氏は、「次世代の若手エンジニアたちに向けて、どのようにCADの設計環境を残すべきか、考えたことがあるか?」と聴講者へメッセージを投げ掛けた。
自分はどうせ10〜20年後に定年を迎えるのだから何でもいいや! ではなく、次の世代にどう設計環境を残していくかを真剣に考える必要があるとし、「それが先代であるわれわれの仕事(=責任)だ。画期的な変革をもたらす3次元ツールを利用できる時代に、2次元CADだけで十分としているのであれば、それは『次世代のエンジニアを育成しない』と宣言していることと同じ」と福岡氏は持論を述べた。
そして、「3次元ツールの導入に向けた取り組みから得られる経験や実績は、後から投資して買えるものではない。この先、もっと便利なツールが出てから考えればいいやではなく、今考えて、今判断して前に進めていくことが大切である。20年後にどのような製品を作っているのか予測はできないが、少なくとも2次元CADで設計しているものは、ほとんどなくなっているのではないか」(福岡氏)と指摘する。
技術とともに、より良い設計環境(=道具)を継承していくこと――。それが、ベテランエンジニアの使命であり、「設計現場へCADを初めて導入し、革新的な変化に対応しながら、それを自分たちの業務に適用させてきたベテランエンジニアだからこそ、次につなげる環境を提案できるのではないか」と福岡氏は語る。
2次元から3次元へ移行するメリット
では、2次元から3次元へ移行する必要性はどこにあるのか? なぜ、3次元ツールが有効なのだろうか? 福岡氏は「3次元CADは、2次元CADとの描画作図時間のタイムレースを競うものではなく、モノが実際に作られるまでの全プロセスを改革するための道具であり、従来の業務プロセス、つまり今の仕事を変えるための道具である」と捉えてほしいと説明する。
そして、講演の中で、ボルトの3Dモデルを2次元図面上に張り付けたスライドを紹介。「2次元CADで図面を描き起こしても見た目は立体のように見えるが、それは単なるラインや楕円などの要素でしかない。しかし、3DモデルであればCAD空間の任意の角度で形状を表示できるため、それがそのまま2次元図面にもなる。よく3次元CADをお絵描きツールと表現する方もいるが、『絵を描く』という意味では2次元CADの方がお絵描きツールといえるかもしれない」と福岡氏。
もう1つ、2次元CADとの大きな違いは、3Dモデルにいろいろな情報を持たせることができる点だという。「設計で使用する以外にも役立つ情報が含まれる。その情報を設計部門以外でどのように活用すべきか、どう役立てることができるのか社内で議論が進むようになる。こうした3Dデータの活用こそが、ツールを3次元化する大きな意味といえる」(福岡氏)。
もちろん、福岡氏は2次元ツールの存在を全否定しているわけではない。「例えば、アイデアを練るためのスケッチや構造図など、紙の上での情報表現が大切な工程もある。こうした部分は2次元が活躍する部分だ」と福岡氏。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.