ドイツ自動車メーカーがプラグインハイブリッド車を大量投入し始めた4つの理由:和田憲一郎の電動化新時代!(16)(2/4 ページ)
ドイツの自動車メーカーが、ここにきて一気にプラグインハイブリッド車(PHEV)の展開に力を入れ、大量投入を計画している。これまでダウンサイジング、ハイブリッド(ディーゼル含む)、PHEV、電気自動車なども検討してきたが、ここまで一気呵成の投入は驚きだ。各国法規制をその理由に挙げる報道もあるが、果たしてそれだけなのだろうか。
(1)日本および米国の自動車メーカーに勝てる戦略を想定
最も重要な課題はこれであろう。数多くのPHEV投入も、究極は日本および米国自動車メーカー、さらには他国の自動車メーカーとの競争に勝つことにある。そして戦略を組み立てた時期を2012〜2013年と想定すると、それはある時期と連動している。そう、結論から述べると、ドイツの自動車メーカーは、PHEV(電気自動車(EV)含む)と、同国が推し進めるモノづくりの高度化を目指す戦略的プロジェクト「Industrie 4.0(インダストリー4.0)」を連動させ、勝負に出てきていると思われる。
これまでドイツの自動車メーカーは、どちらかと言えばエンジンのダウンサイジングによって燃費を向上させる手法をとってきた。また最近ではディーゼルハイブリッドも投入している。しかしハイブリッド技術ではトヨタ自動車(以下、トヨタ)に本格的に対抗することができない。欧州特有の長距離ドライブにも向かない。燃料電池車(FCV)でもトヨタが先行しており、例えばBMWとトヨタが共同開発を行っているものの、現時点では量産化のめどが立っていない。
このような状況下で彼らは、得意とするコンパクトなエンジン技術と、ようやく身に着けた電池技術を組み合わせ、高級車として採用しやすいPHEVに狙いを定めたのではないだろか。
では、次の重要な要素として、PHEVを選択したことについて技術的な勝算はあるのだろうか。
トヨタが万全のパテント体制を引いたHEVやFCVに対して、PHEVやEVはまだ新規開拓の余地が大きい。これは欧州メーカーのみならず、中国の民族系メーカーであるBYD Autoも、独自の技術によりプラグインハイブリッド「秦(Qin)」を市場に投入し、環境自動車として中国市場でトップの売れ行きを示している。これからでもまだ参入可能と見たのであろう。
そして、彼らはPHEV技術のみならず、この時期に国家戦略としてスタートし始めたインダストリー4.0と組み合わせることを考えたと思われる。ご承知の通り、インダストリー4.0は「第4次産業革命」とも呼ばれ、工業のデジタル化によって、製造業の在り方を根本的に変えようとする、官民一体で取り組む国家戦略である。
一見、インダストリー4.0は、工場におけるIoT(モノのインターネット)を用いた生産革命と捉えがちである。しかし、主な提唱者は、Robert Bosch(ボッシュ)やSAPであり、ソフトウェア主導型のシステムである。彼らは、これをPHEVの開発・生産戦略と組み合わせることで、国際競争力が出せると考えたのではないだろうか。
一方、米国では、これに類似したものとして、国家科学技術会議(NSTC)の「国家先進製造戦略(National Strategic Plan for Advanced Manufacturing)」やGeneral Electric(GE)が提唱する「Industrial Internet」がある。また言うまでもなく、Google(グーグル)やApple(アップル)などは、IoTと連動させた自動運転車の開発に取り組んでいる。
対して日本はどうであろうか。個々の企業でIoTに取り組んでいるものの、国家戦略までは描き切れていない。つまり、日本の産業面における国家戦略の手薄さを見通して、先手を打とうとしたのではないだろうか。
さらに、ドイツ自動車メーカーは、ライバルであるトヨタ、ホンダがFCVに注力している事実から、PHEVに対して充実させる余力なし、と考えたと思われる。最近、慌ててPHEVラインアップを充実させる自動車メーカーもあるが、出遅れ感は否めない。
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