配車サービスにとどまらないUberの野望:子猫のレンタルもやってます(3/3 ページ)
2014年3月に日本市場への参入を果たした配車サービスのUber。同社は、配車サービス以外の取り組みも積極的に展開しており、集荷、ランチ配達、引っ越し、果ては子猫のレンタルなども行っている。自動運転技術の開発にも乗り出すなど存在感は日増しに大きくなっているが、Uberの狙いはどこにあるのだろうか。
「物流」のもう一歩先にある「スマートシティ」
しかし、これら一連の取り組みを並べてみたときに、筆者にはそのもう一歩先が見えるように思える。なぜならこれらの取り組みには2つの共通点があるからだ。
1つは、Uberが徹底して「ローカル」にこだわっていることだ。Uberが輸送しているものは「ローカルレストランのメニュー」であり、「ローカル店舗が販売している商品」であり、「ローカルストアが提供する食材」である。引っ越しや大型荷物の輸送も「近場」に限られている。UberMOVERSも30分30米ドルという料金体系から、近距離での引っ越しを想定していると考えられる。
このように、Uberは「街中」を想定して実験を行っているように見える。よって、FEDEX(フェデックス)やUPSのような長距離輸送は必要なく、またAmazon(アマゾン)のように、自社で在庫を抱えることもなければ自社倉庫から発送する必要ない。全て「ローカル」でまかなっている。
もう1つは、取り扱っているサービスが全て「行先(Destination)」を特定するものだということ。これまで提供していたタクシーサービスの場合、利用者が下車した場所が必ずしも利用者の目的地とは限らない。ランドマークなど何か分かりやすい場所を指定したり、あるいは細い小道に入らずに大通りで降りたりして、その先は徒歩で移動することがほとんどだ。ビルやマンションなどの場合はフロアも分からない。
しかし、「モノ」を運ぶ場合は、そうはいかない。例えばクリスマスツリーの生木を配送するUberTREEの場合、必要とされる場所が明確であることから、必ず「行先」が特定される。日常品もそうだ。
UberEATSは詳細なユーザーの居場所を特定していないが、これはむしろ、「食」という人間が生きていく上で必要不可欠なことをサービスとして提供することで、Uberプラットフォームを活用する利用者を増やそうというプロモーションの狙いがあると考えられる。アイスクリームのオンデマンドデリバリーや子猫のレンタルも同じだ。これらは利用者を増やすための話題性、つまりプロモーションの一環と言っていいだろう。
このような共通点から、Uberは、手を変え品を変え「タクシー」にこだわらないサービスを提供することにより、常に世の中に話題を提供しつつ、ユーザーの知名度や実際の利用頻度を上げようとする狙いが見える。
さて、「ローカル」と「行先の特定」から見えてくる「もう一歩先」とはなんであろうか。筆者の見解では、Uberは利用者の消費行動から得られる嗜好やニーズと、かなり精度の高い位置情報とを同時に収集するための実験を行っていると考えている。そしてこれは、Amazonが収集しているユーザーの「購買情報」と「嗜好」、Google(グーグル)がAndroid端末やGoogle Mapsなどを活用して収集しているユーザーの「行動範囲」や「行動パターン」、Groupon(グルーポン)などが収集している「ローカル情報」などを、「輸送」というサービスを通じて一手に収集していると考えられる。
このように考えるとUberのここ最近の動き全ての説明がつく。2015年2月にUberは、Googleに対抗すべく自動運転車分野への参入を表明した。一方、Uberの最大の出資者であるGoogleは、Uber対抗の配車サービスへの参入を示唆した。
UberのアプリにはGoogle Mapsが使われている。一方でUberは2015年5月、Nokia(ノキア)の地図データ子会社であるHERE(ヒア)の買収に名乗りを上げた。HEREについては結果的に買収に至らなかったが、2015年6月にMicrosoft(マイクロソフト)の地図部門であるBingの一部を、100人の従業員とともに買収している。これら一連の動きは、UberによるGoogle依存からの脱却を目指す動きと考えるのが妥当だろう。
つまり、Google Mapsを利用する限り、Uberが入手した情報はGoogleに流れ続ける可能性がある。Google Mapsに依存する形でビジネスを展開し続けていても、配車やモノのデリバリーサービスというビジネスに限られてしまう。Uberがこれまで培ったノウハウをもとに、新たなビジネスを展開していくためには、他社に依存しない、Uber独自の地図が必要になると考えられる。今回買収を断念したHEREであろうが、買収に成功したBingであろうが、Uberにとってはとにかく「自社の地図」の獲得が急務だったといえるだろう。
ではその最終的な目的は何か。ずばり、「輸送」を通じたスマートシティ市場への参入というのが筆者の見解だ。
Uberは2015年1月に、自社の運行データを、個人を特定しない形で都市と共有していくことを発表している。そして第1弾としてマサチューセッツ州ボストン市と、これらのデータを活用した都市改善の取り組みに向けて動き始めているのだ。
Uberは、ここまで紹介してきたように、ヒトの移動や購買といった情報と、その流れ、つまり物流に関する情報を収集している。これら双方の情報を掛け合わせ、分析することができれば、街全体の動き/流れを把握することが可能となるだろう。そしてUberはそれを「輸送」という手段を用いて実現していると考えられる。
「移動(交通)」は生活する上で必要不可欠な要素だ。前述のように、Uberは街のあらゆる「移動」を把握できるポジションにいる。この情報を把握することは、特に人口密度の高いエリアでの交通や移動の問題に貢献できる可能性が高い。もしUberが、自動運転車の導入も含めて全ての「移動」を担う部分を拡大することがあれば、「ヒト」や「モノ」の移動をこれまで以上にスムーズにすることができるだろう。
このようにUberの最近の動きを総合すると、Googleが「Sidewalk」や「Intersection」を通じてスマートシティ市場に参入しようとしているのと同様、「輸送」を通じて同市場に参入しようとしているように感じられる。
「輸送手段を活用したマッチングビジネス」がUberのコアだ。街の中のあらゆる「移動」を把握し、Uberの作ったマッチングプラットフォームを街全体に適用させることで、効率的な街の運営を実現しうるポジションにいると言えよう。
筆者プロフィール
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
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