組織体制もISO26262対応済みのジェイテクト、ADAS時代の機能安全は「冗長設計」:MONOistオートモーティブセミナーリポート(5/5 ページ)
MONOistオートモーティブフォーラム主催のセミナー「IoT時代の自動車に求められるISO 26262と車載セキュリティ」の特別講演に、電動パワーステアリング大手のジェイテクトでシステム開発部 部長を務める賀治宏亮氏が登壇。本稿では賀治氏の講演を中心に、同セミナーのリポートをお送りする。
コネクテッドカーに車載セキュリティは必須
4つ目の講演は、大手車載半導体メーカーのNXP Semiconductorsで車載セキュリティ関連を担当している、NXP Semiconductors Germany Director, Global Automotive Security Marketing, Product Line Secure Car AccessのKlaus Reinmuth氏が行った。講演タイトルは、「Advanced Technologies for Securely and Intelligently Connected Vehicles(セキュアでインテリジェントなコネクテッド・カーのための最新技術)」である。
NXP Semiconductors(以下、NXP)は2015年後半にFreescale Semiconductorの買収を予定しており、これが実現するとECUや電気自動車/ハイブリッド車向けの膨大な製品ポートフォリオを入手することになる。ただしそれとは別に、NXPはHigh Performance Mixed SignalとMCUという2つの製品ポートフォリオを保有している。ここで特に特徴的なのがMixed Signalの方で、NFCやRFIDなどをベースにした通信あるいは決済系、これに絡んだセキュリティ系を強みとする。
さて、昨今の自動車はコネクテッドカーなどと呼ばれるようにそもそも外界と通信接続することも多いので、セキュリティ関連の懸念は多い。例えば、走行状態や走行位置などの情報はプライバシーデータに当たるので保護が必要だし、V2X(Vehicle to X)やクラウドへのアクセスなどでは堅固な認証システムが必要となる。また制御系やADAS(先進運転支援システム)などの安全性に関わる部分では、外部からの攻撃に対する耐性も当然必要になる。NXPは、自動車の中でもこうしたセキュリティに絡んだ部分に対して、既に製品やソリューションを提供している。
NXPが提供する車載セキュリティソリューション。今後は「Vehicle Control」や「Sensor Fusion」、「Camera」などの部分にも(Freescaleとの合併に伴い)ソリューションを提供できるようになる予定(クリックで拡大) 出典:NXPセミコンダクターズ
こうしたセキュリティに対するサイバー攻撃は、外部からと内部からが考えられる。特に外部からの攻撃に関しては、ちょうどセミナー開催の数日前にFiat Chrysler Automobile(FCA)の「Jeep Cherokee」がハッキングされた問題(関連記事:クライスラーの車載情報機器「Uconnect」に脆弱性、「不正侵入の報告ない」)が大きく報道されたこともあり、こうした事態を未然に防ぐための仕組みが必要になるとした。
その上でNXPのソリューションとして、まずはV2X周りの製品とソリューションが示された。もともと、V2X(車車間通信あるいは路車間通信)で情報を交換することにより、交通事故の削減や渋滞の緩和といった効果が期待できるという話は以前から出ており、NXPはこれに向けてRoadLINKという製品群を2013年から提供している。これは欧米の規格に準拠したものであり、実際に自身は1秒当たり20個以上の安全関係メッセージを送信可能、おおむね1秒当たり1000個程度の安全関係メッセージを受信できるとしている。実際の交通状態での測定値は1秒当たり750個以下程度とされており、十分実用範囲であると説明があった。
また現在のV2Xに用いられているDSRC(専用狭域通信)向けに、IEEE 802.11pという規格が制定されている(主に米国向け)が、これに対応したソリューションも既に提供中であるとする。他にもテレマティクス向けの暗号化ソリューションや、セキュアなPassive UHF Tag(米国の有料道路の決済向けなどに利用されている)など、同社が自動車関連セキュリティで提供できるソリューションが多岐に渡ることを紹介して、Reinmuth氏は説明を終了した。
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