アウディとBMWとダイムラーが3社連合でHEREを買収した理由:自動運転技術(2/4 ページ)
アウディ、BMW、ダイムラーのドイツ自動車メーカー3社連合が、ノキアの100%子会社で地図情報サービス大手のHEREを買収した。HEREを詳しく取材してきた桃田健史氏がその理由をひも解く。そして今回のHERE買収は、今後数年間で起こるであろう、自動車産業の構造大転換のプロローグにすぎないという。
ドイツで創業し米国の血を入れた
HEREはフィンランドのノキアの100%子会社である。本社はドイツの首都、ベルリンにある。
なぜ、ベルリンにあるのか? それは、HEREの原型であるベンチャー企業・Gate5が、2006年にベルリンで創業したからだ。日本ではあまり知られていないが、ベルリンは、欧州で英国ロンドンと並び「ベンチャー企業の集積地」として急成長している都市だ。
ベルリンは欧州の主要都市の中では物価が安い上に、治安も良く住みやすい。東欧を含めた欧州各国や欧州と関わりの強いアフリカ諸国から、一攫千金を夢見て、若者たちがベルリンで起業しているのだ。
HEREのベルリン本社内を巡ると、その一角には今でも、Gate5 GmbH(有限会社)いうネームプレートがある。だが「Gate5の関係者はもうほとんど残っていない」(HERE本社関係者)という。現在のHEREの技術的な母体は、ノキアが2007年に買収した、米イリノイ州シカゴを本拠とするNAVTEQである。現在でもシカゴにはNAVTEQの名残として、HEREの開発部隊が常駐している。
NAVTEQを買収してから数年間、HEREはノキアの中の1部門として存在していたが、その後に子会社として分社化された。
そしてHEREの事業が急激に大きくなったのは2012年前後である。その理由は幾つかある。
第1に、日米欧、そして中国で自動運転に関する協議が加速したからだ。国連・欧州経済委員会が管轄する自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において自動運転が議題となり、米国運輸省の道路交通安全局(NHTSA)、米国自動車技術会(SAE)とともに、ドイツの国立自動車研究所(BASt)が自動運転に関するガイドライン作成の調整に入った。
第2に、Google、Appleを主体とする大手IT系企業が自動車産業への参入を真剣に検討し始めたことがある。
そして第3の理由は、親会社であるノキアの事業方針の転換だ。ノキアは携帯電話機事業で、Appleの「iPhone」やGoogleのAndroidスマートフォンに対して苦戦していた。1990年代〜2000年代中盤まで、ノキアは欧米の携帯電話機市場における主役だったが、スマートフォンへの転換が遅れ、GoogleとAppleの先行を許してしまった。
そうした中、ノキアはMicrosoftに携帯電話機事業を売却する交渉を開始し、2013年に売却が決まった。この売却益は数兆円規模に達するが、その一部をHEREに集中的に投資したのだ。現在、HERE本社にはエンジニアを中心に約800人の従業員がいる。
歴史をたどれば、そもそもノキアはタイヤメーカーだった。それが通信事業に参入し、主力部門だった携帯電話機部門を売却することになった。「これからはソフトウェアを主体としたサービス事業へ大きく舵を切る」(ノキア)という新たなビジネスロードマップを公開している。
つまりノキアは、投資家の目線でスピーディな経営戦略を描くようになった。その一環として、HEREの付加価値を上げて、ベストタイミングでの売却を決めたといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.