パナソニックの電池生産を担う町工場が、要素技術で世界を目指す!:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(1)(3/5 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。第1回となる今回は日本有数の企業城下町である大阪府守口市で、レーザー加工・精密溶接を手掛ける三郷金属工業の取り組みを紹介する。
1社依存からどう脱するか
同社は創業初期から松下電器(現:パナソニック)との取引が事業の中心で、全国有数の企業城下町にある典型的な1社請負企業だった。高度成長期は、営業に回らなくても仕事がどんどん入ってきた。不況に強いといわれる電池を扱っていたため、バブル崩壊後も携帯電話機用バッテリーの需要拡大による好影響で乗り切ったという。
しかしそんな同社に転機が訪れたのは2011年のことだ。パナソニックが7500億円以上の巨額赤字を出したのだ。これはさすがに三郷金属工業も大きな影響を受けた。売り上げが激減する中で児島社長は「外に出て顧客を獲得していくしかない」と腹をくくった。これまで、営業に出た経験などなかった。しかし、どうしたらいいかと考え込んでいる暇はなかった。
児島社長はその時の心境について「知覚動考(ともかく動こう)です! 知ったことを覚え、まずは動いてみる。考えるのは最後でいいと思っていました」と語る。
「取っ手付き缶コーヒー」で技術力をアピール
こうして三郷金属工業は新規顧客の獲得に向け、2012年に“初めて”展示会に出展。しかも児島社長1人での出展だ。しかし来場者の目を引くようなパネルも展示物もない。ブースの前を人が通り過ぎていくだけで、誰も足を止めてくれない。児島社長は「俺、何やってんだろう……」とへこんだという。しかしこの失敗の経験を次に生かした。
展示会でレーザー溶接をした電池や部品を机の上に並べただけでは、三郷金属工業の技術の高さは伝わらない。まずブースで足を止めてもらい、話を聞いてもらうところから始めなくてはならない。どうすればいいのか。
そこで児島社長が考えたのが「取っ手付きの缶コーヒー」だ。これは缶コーヒーに、0.2mm厚のアルミの取っ手をレーザー溶接したもので、ブースの前を通った人に「これを持ってみてください」と差し出す。すると「これは何?」っと興味を持た人が足を止めてくれ、話を聞いてもらえる。初めての展示会での失敗の経験を生かした、技術を“見える化”するためのアイデアだ。
さらに児島社長は別の形でも情報発信に注力した。まず自社のWebサイトを開設し、縁があった企業には毎月1回「35通信」というA4の自社製作の新聞を郵送。さらに自社の理念を顧客に伝えるため、町工場のチャレンジをテーマにした電子書籍も出版した。
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