AUTOSARとは?/What is AUTOSAR?−2015年版−(後編):AUTOSAR〜はじめの一歩、そしてその未来(2)(2/4 ページ)
「AUTOSARとは?」という問いにはさまざまな切り口での答えがある。今回は、前回に引き続き、「AUTOSARとは?/What is AUTOSAR?−2015年版−」の後編として、AUTOSARの標準化の対象である「(Software)Architecture」「Methodology」「Application Interface」の3項目の観点から説明する。
Methodology
「Methodology」という言葉の和訳は難しい。しばしば「手法」と訳されるが、それは、私には意味の異なる「technique」を連想させてしまう。また、「方法論」ではあまりピンとこない。そのため、和訳する代わりに、「何に基づき、どのような作業を行い、何を得るか、という一連の流れ」と説明することが多い。
図2 「AUTOSAR Methodology概要Workflow」(クリックで拡大) 出典:AUTOSAR R4.2 Rev.1 TR Methodology、Figure 2.2相当(AUTOSAR_MMOD_MetaModel.eapより作成)
AUTOSARにおけるこの流れは、AUTOSAR TR Methodologyと呼ばれる文書で解説されており、SPEM※1)と呼ばれる記法のサブセットを用いて記述されている。Methodologyの概要を図2に示す。
AUTOSAR Methodologyに従い、開発中に作られるさまざまな設計情報は、必要に応じてツール間あるいは異なる立場の作業者の間で受け渡し(データ交換)がなされる。また、構成管理が行われる。そのため、そのデータ形式における共通の定義が必要となる。
AUTOSARにおけるデータ交換は、基本的にXMLを用いて行われる。AUTOSAR XMLあるいはARXMLと呼ばれるこれらのデータ形式は、さまざまな段階や単位でのデータ交換を可能とするために細分化されており、主にAUTOSAR TPS(Template)と呼ばれる各種文書で定義されている。その代表的なものを以下に示す。
ECU Extract
一般的には、自動車メーカーとECUサプライヤ間での情報の受け渡しの手段として用いられ、ECUソフトウェア開発(RTE/BSW設定)における必須の起点となる※2)。詳細はAUTOSAR TPS System Templateと呼ばれる文書に定義されている。例えば、ネットワークのE/Eシステムの構成(例:ECUやネットワークの定義)、通信マトリクス定義(例:メッセージ定義)、ECUに対するSW-Cの割り付け情報などが含まれる。なお、他にもさまざまな構成要素を含めることが可能であり、それらはRTEやBSWの設定に反映させることができるため、ECUサプライヤ側での設定作業の省力化にも寄与しうる。しかし、ECU Extractの構成要素となり得るものの全てが、常に自動車メーカーから与えられるわけではない。不足部分があることの方がむしろ多く、その場合にはECUサプライヤ側で補う必要がある。また、開発初期には不完全な状態のものが提供され、後に更新が繰り返されることも多い※3)。
ECU Configuration Values(EcuC)
ECU Configuration Descriptionとも表現される。RTEやBSWの設定情報が格納され、それらのコード生成に利用される。単一ファイルとしてまとめられる場合もあれば、BSWごとに小分けにされることなどもある。詳細は、AUTOSAR TPS ECU Configurationと呼ばれる文書に定義されている。
Software Component Description
Application LayerのSW-Cに関する定義情報が格納される。詳細は、AUTOSAR TPS Software Component Templateと呼ばれる文書に定義されている。正確には、AtomicやComposition、Service Componentなど、各種のSoftware Componentがあるが、それらの定義を含むデータは一般にSW-C Descriptionと総称されている。また受け渡しの際、SW-Cのインタフェース部分の定義(Port Interface)やデータ型(Data Type)などの情報が単一ファイルにまとめられる場合もあれば、それぞれ小分けにされる場合もある。
Measurement and Calibration Support Data (McSupportData、MCSD)
SW-CやBSWに対する適合や測定を支援するための情報(具体的には変数名や型など)が格納される。詳細はAUTOSAR SWS RTEと呼ばれる文書に定義されている。この支援情報はASAM MCD-2 MC規格(別名ASAP2)のA2Lファイルに変換され、適合/測定/診断ツール(Measurement、Calibration and Diagnostics Tool、MCD Tool)で使用される。
Diagnostic Extract
診断関連の定義情報が格納される。詳細はAUTOSAR TPS Diagnostic Extract Templateと呼ばれる文書に定義されている。R4.2 Rev. 1にて追加されたデータ形式である。
ECU Resource Description
ECUハードウェア関連の定義情報が格納される。詳細は、AUTOSAR TPS ECU Resource Templateと呼ばれる文書に定義されている。現時点におけるAUTOSARの最新バージョン(R4.2 Rev.1)でも、Analog IOやDigital IO、Timerなどの定義は「Currently no special attributes are defined」となっており、利用頻度は極めて少ない。
注釈
※1)Software&Systems Process Engineering Meta-Modelのこと。Object Management Group(OMG)により開発されたものである。http://www.omg.org/spec/SPEM/2.0/
※2)ECU Extractの代わりに、従来型(non-AUTOSAR)のデータ形式が用いられる場合も少なくない。例えば、通信関連ではDBC、LDFおよびFIBEXがその代表的なものである。AUTOSAR Authoring Toolの中には、拡張機能としてそれらの読み込みに対応したものもある。その1つである「ETAS ISOLAR-A」では、DBC、LDFおよびFIBEXの読み込みスクリプトを作成できるため、自動車メーカー固有の拡張情報(特にDBC)を、RTEやBSWの設定に反映させることも可能である。
※3)ECUソフトウェア開発の起点となるものであるため、ECUサプライヤから自動車メーカーへのフィードバックは、開発における鍵の1つである。「最終的にどのようなものが得られるはず」ということと、「現実に得たもの」を区別して考える必要があることなど注意点は多い。
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