第31回 損失:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(2/4 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第31回は、信号が伝送線路を伝播するとき、信号の一部が熱となり信号のエネルギーの一部が失われてしまう「損失」について取り上げる。
2.デシベル
一般的に損失の定義にはデシベル(dB)を使います。デシベルは伝送線路への入力信号(ドライバからの出力)と伝送出力信号(レシーバの入力)とのエネルギーを対数で比を取ったものです。
電力エネルギーはワットですから、伝送線路への入力信号の電力をWin(W)、伝送線路からの出力信号の電力をWout(W)とすると、この伝送線路の損失Lは、
L=10log(Wout/Win)……(1)
となります。
デシベルは騒音や電磁波の定義にはよく使われますが、伝送線路解析にはあまり使われませんでした。
しかし、高周波信号ではデシベルは一般的に使われています。図3はTV信号の分配器ですが、入力信号に対して出力はおのおの3.5dB減少することが示されています。
電磁放射ノイズやアンテナの放射効率などにもデシベルが使われます。しかし、損失が問題となるような高速シリアル伝送方式の規格ではこのデシベル定義が規格として定義されています(図4、図5)。
ここで注意することは、伝送線路の損失に使うデシベルは電磁波などで使う一般のデシベルとは、値の定義が異なります。伝送線路の損失には、信号の電圧振幅(V=ボルト)を使いますが電磁波の強さの単位には電力(W=ワット)を使います。
電力Wは流れる電流I、電圧V、インピーダンスZとすると、
W=I×V=V2/Z
となります。
つまり、電力は電圧の2乗に比例します。
電力のデシベルWdbは(1)式の電圧のデシベルLで定義すると、
Wdb=L2=10log(Vout/Vin)2
=20log(out/in)……(2)
つまり、伝送線路の損失による電圧変化は、電力で定義する電磁波での20log(out/in)に対して10log(out/in)となり、その大きさが2倍になります。
例えば電力が半分になる損失量は-3dbですが、電圧が半分になる損失量は-6dbになります。
例えば図5のTV信号分配器ですが、この単位は電力で定義されています。
1入力を2つの出力に分配するので、理想状態でも1出力の電力は半分(-3db)となります。分配器内部での損失が-1dbあり、結果として、出力は、おのおの-3.5dbの損失が出ることを示しています。
このように、dbでの定義は電圧レベルなのか、電力レベルなのかを確認しないと損失量を読み間違えてしまいます。
この損失は損失のある対象をブラックボックスとみて、入力と出力の大きさの比を表しますが、増幅回路などの回路をブラックボックスとして、入力信号と出力信号の増幅比を定義する場合にも使います。この場合は増幅なので、利得(ゲイン)と呼び、デシベル値はプラスとなります。
この場合も20倍を使う電力比なのか、10倍の電圧比、電流比なのかを判断することは重要です。
電磁波や伝送線路の損失の大きさは距離(配線長さ)に比例します。例えばケーブルの損失などをハーネスの長さごとに定義し直すのは大変なので、単位長さ(1m)の損失を定義し、実際の長さにより、比例計算し、損失を求めます。
このような単位長さあたりの損失 dB/mを定義する場合もあります。
同様に1mWの電力を基準(0dB)として、電力の大きさを絶対値定義したものをdBmとして表します。
この他、1Vを基準とした電圧比dBVや1μVrmsを基準としたdBμなど同じdBでもいろいろの定義があります。
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