人はなぜ協力するのか、そのメカニズムを「信頼ゲーム」で解明:医療技術ニュース(1/3 ページ)
情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員の春野雅彦氏が、人の協力行動における脳の機能分析に関する研究成果を発表。人が協力行動を行う際の、脳の各分野の働きを明らかにすることで、脳の進化メカニズムや、社会認知と深く関係する精神疾患の理解に貢献するという。
情報通信研究機構(NICT)は2015年2月24日、東京都内で記者向け説明会を開き、NICT 脳情報通信融合研究センター 主任研究員の春野雅彦氏が、人の協力行動における脳の機能分析に関する研究成果について説明した。人が協力行動を行う際の、脳の各分野の働きを明らかにすることで、脳の進化のメカニズムや社会認知と深く関係する精神疾患の理解に貢献するという。
人はなぜ協力するのか、そのとき脳は何をしている?
人はなぜ協力するのか、そしてそのとき脳はどういった働きをしているのか。春野氏によれば、人の協力行動には、人の進化とともに発達した大脳皮質の高次認知機能の中枢である前頭前野と、多くの動物と共通する皮質下の原始的な領域の働きが関係している。そしてこれまでは、皮質下の領域が「自分の取り分を増やしたい」と働くのを、理性的な前頭前野が抑制することで協力行動が生じるという学説が有力とされていたという。
しかし春野氏らは2010年に、脳の皮質下の領域に位置し、人の情動をつかさどる扁桃体が“不平等”に対して反応することで人の協力行動に影響をもたらすという研究成果を発表。これは、先述した皮質下の領域の働きを、前頭前野が抑制するという、一元的な従来の学説とは異なるものだ。ただしこの2010年の研究は、皮質下の原始的な領域にある扁桃体の機能を明らかにしたが、前頭前野がどういった働きをしているのかについては解明していないままだった。
前頭前野も含めた機能の解明へ
そこで春野氏は、人の協力行動において皮質下の扁桃体と前頭前野のそれぞれが担う役割を明確にするため、新たな研究に取り組んだ。同研究は、岐阜正徳大学准教授の二本杉剛氏との共同研究であり、一部は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人研究の「脳情報の解読と制御」の一環として行われた。
春野氏らが行った研究の成果を簡潔にまとめると、人の協力行動において皮質下の扁桃体が“不平等”に関する活動を行い、前頭前野は“罪悪感”に関する活動を行っているというメカニズムを明らかにしたことにある。ここでいう罪悪感とは、「他者や社会の期待と、自分の行動で生じる結果との差や、相手の意図に基づく将来に対しての動的なシミュレーションを行う能力」を意味している。また、「不平等を表現する」とは、他者と自分を比較した場合の相対的な差異を表すということだ。
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