「魂動デザイン」は足し算ではなく引き算:クルマから見るデザインの真価(1)(3/4 ページ)
車両デザインを通して、「デザイン」の意味や価値を考えていく本連載。第1回はマツダの「魂動(こどう)デザイン」を取り上げる。「CX-5」と「アテンザ」の“大幅改良”から、魂動デザインが目指すものが見えてきた。
「受動的な動き」と「意志をもった動き」の違い
マツダのデザインが「動き」をテーマとしたのは、現在の「魂動デザイン」が最初ではない。初代ロードスター(NA6C)や「RX-7」(FD3S)のころは、「光と影をコントロールする繊細な面表現」が強い印象だったが、「Zoom-Zoom」のブランドメッセージが採用されたあたりから、「動きの表現」になってきている。モーターショーのコンセプトカーでも「流(NAGARE)」や「風来(FURAI)」など、動くことで生じる車体周辺の空気の流れのようなものをテーマとした造形もあった。
この頃の動き表現と、現在の魂動デザインの動き表現の違いを、「風を受けてできる『受動的な動き』か、動物の筋肉の動きのような『意志をもった動き』か」という言葉で玉谷氏は表現していた。時代の変化とともに、よりダイナミックに、より主張が明確な方向に変化してきていることが伺える。
こういったデザインの変化を感じるのはマツダだけではない。近年どのメーカーのクルマも、それぞれのメーカーやブランドごとの特徴をより強く打ち出そうとしている傾向が伺える。ブランドの「らしさ」を視覚的にアイコンのごとく統一感あるイメージで整えることは、市場での存在感という点でも今や重要だ。市場での存在感とは人々の意識下でのシェア、マインドシェアであり、生活者の身の周りの情報量がどんどん増えている状況下にあっては、意識の中に一定のイメージないものは存在しないのと同じか、価値や意志決定での判断基準が価格のみに近い日用品になってしまう。
現代のデザインには、1つのモノの姿形や色を装う化粧としての機能にとどまらず、モノの作り手/送り手の思想や意図を反映することも求められている。デザインはコミュニケーションツールなのだ。
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