トヨタの燃料電池車特許の無償公開に見る、4つの論点:知財専門家が見る「トヨタ燃料電池車 特許開放」(1)(2/3 ページ)
トヨタ自動車は2015年1月6日に燃料電池自動車(FCV)の内外特許約5680件を無償公開すると発表しました。「なぜ特許を無償公開するのか」「なぜ2020年の期限付きなのか」「米テスラ・モーターズのEV関連特許開放との関連性」「ホンダとの協調の可能性」など4つの疑問点について、知財専門家が解説します。
なぜ2020年までの期限付きとしたのか
このように標準化戦略の視点で考えますと、トヨタが無償の特許開放期限をなぜ2020年までと有限にしたのかという理由についても導き出せます。
標準化活動とは仲間作りの動きでもあります。トヨタとしては早期にFCVに世代交代させるために、参入企業をできるだけ早く増やし仲間に入ってもらう必要があります。EVという有力なライバル規格候補があるので、早期にFCVへの流れを作り出してしまうことは、事業戦略上、極めて重要です。言い換えるならば、同業他社に今後の流れがどうなるかを様子見されては困るのです。できる限り早く、FCVの仲間に入ってもらうために、期限を設定したと考えることができます。
米テスラ・モーターズによるEV関連特許の開放と関係があるか
電気自動車の普及を左右するのが、急速充電器の規格統一です。政府は、「知的財産推進計画2012年」の中で、2013年をめどに「急速充電器の接続部の国際標準化を促進する」としており、日本の規格である「CHAdeMO」の国際標準化を推進してきました。CHAdeMOは、2014年4月にEV用急速充電規格の国際標準化が完了し、あとは普及を待つばかりの段階になっています。そのような時期に、テスラ・モーターズが電気自動車関連特許を開放すると発表した(2014年6月)ことは、EVへの流れを加速させる意図があったと考えられます。
「標準化」の特徴として、一度ある技術が規格として採用されて普及すると、それを置き換えるのはとても難しくなります。これを専門的には「過剰慣性」と呼んでいます。「利用者は使いなれたものに固執する性質があるため、良質の新製品が出てきてもなかなか乗り換えをしない」ということです。
もしEVがガソリン車に代わる規格となれば、その時には、現在のガソリンスタンド網と同じように、充電装置やシステムが全国、全世界に張り巡らされることになります。そうなると、それに代えて今度は水素ステーションを設置するということは、現実的にはかなり難しいことになります。
確かに、標準規格を変えていかなければならない理由は誰でも理解できるものです。ガソリン車の場合、化石燃料資源が有限であり、排ガスによる大気汚染の問題があります。また、電気を使う場合でも、現状では電気を作るために化石燃料を消費しており、それにより環境汚染を引き起こすとされています。それに対して水素燃料は、環境への負荷が少なく「究極のエコ」だとも呼ばれています。
しかし、過去の歴史が証明しているように、標準化の世界では、どれほど代替品が素晴らしいモノであっても、それによって世代交代が起こるとはいえないのが難しいところです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.