吸引式マウス「紫電改」が圧倒的スピードで優勝、若手の躍進も目立つ大会に:第35回全日本マイクロマウス大会 リポート(3/3 ページ)
世界最古とも言われるロボット競技会「全日本マイクロマウス大会」が開催された。大会には、過去最大258台のマイクロマウスが参加。マイクロマウスクラシック競技エキスパートクラスで、吸引機構を搭載した「紫電改」が優勝。その他にも、若手エンジニアの活躍が目立つ面白い大会となった。
若手エンジニアの活躍に期待
今大会は、大学生を中心とした若手参加者の活躍が目立った。
長く続いているロボット競技会では、課題を変えたりルールを調整したりして参加者に新たな技術的チャレンジを設けることが多い。ところがマイクロマウスクラシックは、機体レギュレーションや競技ルールが、ほとんど変わっていない。そうした状況の中でも、マイクロマウスは開始から35年間を経た今も技術が進化し続けているのだ。
マイクロマウス競技を知ったエンジニアの多くが「面白いが、レベルが高くて参加できない」と言う。筆者の回りでは、ロボコンに参加経験がある人ほど、そう考える傾向が強いようだ。これは、大会レポートで優勝ロボットだけを取り上げるメディアの責任もあるだろう。
確かに優勝を争うマイクロマウスのレベルは非常に高い。「体積当たりでいえば、世界最高の人工知能を搭載しているのでは?」と言われるほどだ。しかし、マイクロマウス競技会は懐が広い。上級者だけではなく、ロボット初心者にとってもチャレンジングで面白い課題だ。
マイクロマウスは機構がシンプルだ。モーターで車輪を駆動し、センサーで壁を検出できれば競技に参加できる。マイクロマウスの開発には、機械設計・回路設計・プログラミングまで幅広い知識が必要だ。個人がシステム設計をしてメカからソフトウエアまで作りこむことができるサイズで、組み込みの基礎技術を習得できる。エンジニアとしての基礎を固めるのに、最適な課題となっているのだ。
競技の難易度は、迷路の組み方で柔軟に対応できる。例えば、全日本大会のフレッシュマンクラス予選は、8×8区画の迷路で行っている。予選上位のマイクロマウスが、決勝の16区画迷路を走ることができる。きちんと動くハードを作り、ソフトウェアを作りこめば初心者も十分楽しめるのだ。
今大会のフレッシュマンクラスで優勝した「Schwarmer」を製作した今井康博さん(東京理科大学 Mice)は、ロボット歴1年だという。電子工作の経験は「小学校のころ、キットを組み立てたことがある」程度だそうだ。
大学サークルの場合、先輩の設計やソフトを譲りうけて大会参加するケースもあるが、東京理科大学 Miceは「教えてあげるけど、データはあげない」が基本方針。今井さんも、先輩のロボットやネット情報を参照して、自分でイチから製作したという。
「C言語は大学の授業で教わっただけ」だが、マイコンの扱い方を理解したくて勉強したそうだ。ステッピングモーターの台形加速処理が難しかったという。MONOistの連載「マイクロマウスで始める組み込み開発入門が分かりやすくて参考になりました!」といって頂き、うれしい限りだ。
開発コンセプトは「ステッピングモーターで最速のマイクロマウス」。7秒967で優勝したSchwarmerの走りを動画で紹介しよう。
「マイクロマウスは経験がモノをいう」と言われてきたが、この数年で若手がぐんぐん伸びてきている。今大会でクラシックエキスパートで2位になった長谷川 峻さんは、高校1年の時にマイクロマウス競技に初出場し今年で5年目だ。他にも、平松 直人さん(東京理科大学 Mice)、滝澤 優さん(電気通信大学ロボメカ工房)、中島 瑞さん(電気通信大学ロボメカ工房)、松井 祐樹さん(京都大学機械研究会)、藥師川 楓さん(ロボコンやっぺし)と、今後、頭角を現すだろうと期待されている学生や若手が多い。
「来年は、DCモーターで新しいマウスを作りたい。目標は決勝進出!」と語る今井さんが、諸先輩たちにどのようなマウスで挑むのか楽しみだ。次回大会も、今回と同時期に東京工芸大学厚木キャンパスで開催される。動画では伝えきれないマイクロマウス競技の面白さを会場で見てほしい。
ロボット開発の最前線
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